普遍的な孤独の感覚が、この端なる存在にも影を落としている。高い塔の上、見渡す限りの空に囲まれ、存在は風を聞いた。風はゆっくりと時間を運んでいるかのようだった。それは自身が共有する孤独の音声であり、唯一無二の相手であった。この存在は、ほかに誰もいない世界で肩を並べることができる風だけを友としていた。
昔々、人々がいた時代からずっと変わらず、この場所は風が主を待ち続けていた。塔の壁には古い石が積まれており、風が通り過ぎるたびにかすかな唸りを上げる。存在はこの音を聞きながら、「一体、何のためにここにいるのか」と問いかける。答えは来ない。ただ風の陽炎が、かつ存在の形を帯び、その問いに応じるかのように見えた。
季節が変わり、風の色が変わる。春の優しい匂いから夏の熱い息吹、秋の色彩に満ちた冷たさ、そして冬の刺すような白さへと、風は存在に時間の流れを教えてくれた。存在は、この風の変化に身を委ねながら、自らもまた何かを変えることができるのではないかと模索した。しかし、身体は動かない。それはただ、風を感じることだけが「生きる」という行為だった。
ある日、塔の円形の窓から一枚の枯れ葉が舞い込んできた。風が運んできたのだ。その葉は、存在の足元に静かに落ちた。存在はそれをじっと眺める。何故、この葉がここにあるのか、どこから来たのか。存在は長い時間をかけて考え、やがて、もし自分も風に乗ることができたら、という想いに至ったが、それは叶わない願いであることを知っていた。
風は日々存在に語りかける。風が教えるのは自由であること、そして囚われることの意味であった。風は塔を通り抜け、存在を包み込み、世界の大きさを教えてくれる。存在は自らの場所を愛しながらも、外の世界に思いを馳せた。その思いは、風とともにどこか遠くへと運ばれていった。
孤独は、風によって感じられる。風が存在に教えたのは、自らが一つの全体であるということだった。外の世界との唯一の接点である風は、存在に不朽の意味を与えた。そして、その風は何かを伝えようとしているかのようだった。
結局のところ、存在は、風が自分自身であるかのように感じ始めた。風のささやきは自らの内部の声であり、風の動きは自らの心の動きであると。風とともに、静かに、しかし確実に、存在は自己を解き放ち、そして理解した。自分はここにいる。自分は風である。
そして、葉が風に舞い上がり、窓の外へと消える様を見つめながら、存在は感じた。自分自身の中に、何かが静かに変わり始めていることを。
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