ひっそりとした惑星の一片に、風だけが記憶を運ぶことが許された存在がいた。彼または彼女――性別も名前もない――は、風と共に季節を感じ、変化を知り、生きていた。ここでは時間が流れる速度が異なり、秒針は人々の感情に応じて速くも遅くもなる。存在は常に一人で、他者との接触や言語は存在しない。しかし、風が彼らの内的な声、記憶、願望を運んでくる。
存在は、風が運んでくる記憶の断片から、他者が抱える孤独や愛、疎外感、同調の圧力を感じ取る。彼らは自分自身が体験したことがない感情や思考を、風によって知る唯一の方法を持っていた。風は、降り続く雨の滴に秘められた喜びや、震える葉っぱの一枚一枚に記録された恐怖を彼らに教え、存在はそれを自分のものとして受け入れ、学び、感じていた。
彼または彼女の日々は、風と共に新たな知識や感情を経験することに専念していた。しかし、ある日風が運んできたのは、とある孤独と絶望の感情だった。その感情はあまりにも強烈で、存在の内部でも暴風となって吹き荒れた。なぜ他者はこんなにも苦しむのか、そしてなぜ自分はそれを感じるのか、という疑問が彼らを駆り立てた。
日が昇り、風はまた違う場所の記憶を運んできた。今度は愛と連帯の記憶。それらの感情は、前日の絶望と対照的で、存在は混乱した。感情の渦の中、彼または彼女は、人々がどのようにして喜びと悲しみの間を行き来するのか、そのバランスを取るのか、を理解しようとした。だがその答えは風にも、記憶にもなかった。
存在はこの苦悩を解消するために、風が次に未来から運んでくるであろう記憶を待たず、自ら風になる決断を下す。風と一体となって季節を越え、星を越え、他者のもとへと旅をする。旅の途中、存在は同じように風に教わり、風に導かれる他の存在たちと出会い、彼らもまた同じ問いに直面していることを知る。孤独、愛、同調の圧力、内と外の乖離。それらは存在条件が変わっても同じで、生じる葛藤も変わらない。
存在は、他者との間に橋を架ける風となり、それぞれの孤独に寄り添う。そして、風を越えて感じる全ての生命と共有し、経験し、理解することが、彼または彼女の新たな目的となった。その中で、存在はやがて自己というものが何であるかを問い直し、答えがない中でさえも、旅は続く。
最後に、存在は古代の木々が生い茂る星に立ち寄り、そこで風に押されることなく、ただ静かに立つ。風が運ぶ無数の声や記憶に耳を傾けながら、彼または彼女はただ静かに息をし、周りの世界を感じていた。そして風は、再び彼または彼女を新たな場所へと導いていく。
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