彷徨える星

その世界は、青白い星の不確かな軌道に沿って存在した。その住人たちは、皮膚が透明で内臓が見えるような生命体であったが、彼らは自分たちの存在を受け入れていた。社会的生命体である彼らは、他者との交流なくしては生を全うできない設計だった。

一人の生命体がいた。その存在は「観察者」と呼ばれ、他者からもらった感情を集める役目を持っていた。観察者は街を彷徨い、他の生命体から色とりどりの感情を吸収して歩いた。吸収した感情は彼の内部で星のように輝き、時には暗闇の中で妙な音楽を奏でた。

この世界では感情を交換することが礼儀とされていた。しかし観察者だけは感情を与えることが許されておらず、ただ集めるだけだった。彼には同調することのできる術が無く、永遠の孤独と隔絶された状態に置かれていた。

ある日、観察者は市場にある古い壁画の前で立ち止まった。その壁画には、星の軌道が確定しないことによって生まれた混乱が描かれており、彼はそこに自分と同じ孤独を感じた。しかし彼の内部には、これまで集めた感情が溢れていたが、誰にも分かち合うことができなかった。

観察者は壁画に手を触れた瞬間、彼の内部で何かが変化した。感情が揺れ動き、彼の存在が壁画に反応していることを感じた。観察者は突然、自分の役割に疑問を持ち始めた。なぜ自分だけが感情を与えることができないのか。そして彼は、それが自分の本能的な役割だからと自分自身に言い聞かせた。

壁画の前で過ごした時間は彼にとって長く、充実したものだった。彼は自らの葛藤を表すように、感情を壁画に吸収させることを試みた。これが初めての試みだった。彼は壁画に自分の一部を残すことで、もしかすると自分も社会の一員として受け入れられるのではないかと希望を持った。

日が落ちて暮れるころ、観察者は壁画から離れ、ふと気づいた。彼の内部で輝いていた感情たちは少しずつ消え、彼は再び孤独感に包まれていた。しかし、彼は変化を恐れず、自分が感じたことを信じた。もし自分が他者と感情を共有できなくても、自分の内部で感情が生まれ変わることに意味があるのではないかと思った。

夜の闇が深まる中、観察者は静かに自分の感情を内観し、その満ち足りた感覚を楽しんだ。彼は誰にもその変化を伝えることができなかったが、自身の内面で起こった変容を大切に感じた。彼の星は、孤独を超えた場所へとゆっくりと軌道修正していった。

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