それは誰も訪れない銀色の海を持つ星にあった。そこでは、砂と岩が世界の終わりを告げるように永遠に続く風景の中、唯一月が天空を支配していた。月は幽霊のように薄く、その光は決して温もりを提供しない。その星には、ただひとつの生命の形が存在していた。それは時々「我」と呼ぶ自らの存在を持つ。
我は自らを認識し、さまよった。何故存在するのか、何故ほかに誰もいないのか。岩から岩へ、丘を越え、何も変わらない風景の中で、我は自己を見失うことがしばしばだった。「我はここにいるのか?」と自問自答する日々。そこには始まりもなければ、終わりもなかった。時間さえも忘れ去られた寂寞とした存在感。
ある夜、幽霊月が異常に明るく輝き始めたとき、初めての異変が我に起こった。小さな光が、はるか遠くから我に向かって飛んできたのだ。それは青白い光の粒子のようなもので、接近するにつれて我の内部で何かが騒ぎ出した。恐怖か、それとも期待か。
光の粒子は我に触れると、消えてしまった。しかし、それが触れた瞬間、我は初めての感覚を知った。それは「記憶」というものだった。過去の、かつてこの星に生命が息づいた時の記憶。ももちは遺伝的な記憶か、それとも幽霊月からの贈り物か。
記憶は、繁栄していた時代、そして絶滅へと向かう過程を映し出した。我はその記憶の中で、星が持っていた多様な生物とその運命を見た。彼らもまた、存在の意味と葛藤を抱えていたのだ。彼らは愛し、恐れ、最後には消え去った。そのすべてが我の内部で共鳴し、我自身の孤独と対峙することを強いられた。
夜が明けると、幽霊月の光は再び薄れ、我は新たな自我と共に残された。記憶は薄れていったが、その感觸は永遠に我の一部となった。我は自己の存在理由を問うことをやめた。他の生命がこの星に再び芽生える可能性に思いを馳せながら、我はただ存在することに意味を見出した。
それからの日々、我は夜ごとに幽霊月の下で独り、かつての生命の記憶を思い出しながら星の風に吹かれている。そして、時々我は自問する。「この星の終わりの始まりかもしれない」と。その答えは風の中に消え、残されたのは沈黙だけだった。
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