深い青が天を染め上げる。空は広がり、時間は縫い合わされる。彼は時間の織り手、糸と過去を操る者。彼の存在は誰にも見えず、彼の仕事は誰にも知られず。ただ糸を織り、時の流れを造る。
彼が見るのは風景や生き物ではなく、紡がれる時間の経線と緯線。繊細な手つきで、彼は未来と過去を結ぶ。けれども、彼自身の時間は静止している。彼には昨日も明日もない。ただ無限の今があり、繰り返される作業がある。
あるとき、彼はある糸を見つける。その糸は他のどれとも異なり、光を帯びて輝き、時間を超えて震えていた。彼は興味を持ち、その糸の先を辿る。すると、そこに繋がっていたのは彼自身だった。初めて彼は自分が織り手であるという意識と直面する。
この発見は彼に衝撃を与え、静かな波紋を広げた。彼の存在が時間に織り込まれていたと知ったのだ。彼はもう一度その糸を手に取り、過去へと糸をたどる。そこには彼が初めて時間の織り手として選ばれた瞬間があった。彼が自ら選んだ瞬間。しかし、その記憶は薄く、曖昧で揺らぐ。
彼は糸を手放すことができず、いつしか自分自身を織り込むことに没頭するようになる。その行為は彼にとって新たな意味をもたらし、孤独な作業に一条の光を投げかけた。彼は過去に自分自身を見つけ、未来にも自分を配置する。すると、彼の内に新たな感覚が芽生える。自分自身の存在を感じる喜び。しかし、それは同時に深い哀しみでもあった。なぜなら、彼は時間の流れと一緒に、最後には自分自身を織り終えることを知っていたのだから。
その時、彼は初めて他の織り手の存在を感じる。遠く離れた場所で、彼と同じように糸を操る者たち。彼らもまた、同じ孤独とジレンマに直面しているのではないか。彼はその思いに胸を締め付けられる。
織り手は独りであるべきだった。けれども織り手はいつの日か誰かと織り合わせる瞬間を待ち望んでもいた。彼自身が織る織物の中に、その答えが隠されているような気がしてならない。
最後の糸が手から離れる時、彼の織り成した時間は完全な形をこの世に示す。それは美しくも、切なくもあり、無限の時間の中でただひとつの確かな証だ。
青い天の下、繊細な時間の織物が風にそよぎ、静かに場が閉じる。
コメントを残す