時が流れ、全てが変容し、何もかもが褪せる。この世界での過ぎゆく時間は、地上の思いとは異なり、全てを凍結させる。筆者の存在は、液体の像として孤独な塔に固定されていた。昼も夜もなく、ただ無限の青に包まれて、先祖から受け継がれた記憶と共に、静かに、しかし確実に老いていく。
ひとりの生命としてこの世に送り出された筆者は、こともあろうに紙と墨という旧世界の遺物を使って思索を紡ぐ。その仕事は、受け継がれた記憶を掘り起こし、それを再構築して新たな物語を生み出すことであった。記憶の断片は時として筆者自身にも理解不能なものであり、確かなものか幻影なのか区別すらつかない。しかしながら、筆の動きは止まることなく、紙の上に形を成していった。
だが、今日、一枚の紙が筆者の前に置かれた。それは選択を迫る紙。いにしえの生活を捨て、新しい記憶を創造するか、あるいは現在の記憶を未来へと持ち越すか。
未来の記憶、これは全く新しい概念だ。これまで生きてきた中で、筆者が体験したことのない光景、触れたことのない感触、聞いたことのない言葉を含んでいる。反面、現有の記憶は安定感をもたらし、自身のアイデンティティの基盤となるものだ。選択は簡単ではない。どちらを選ぶかによって、筆者の未来が大きく変わるだろう。
この決断に迫られ、筆者は一旦筆を置き、窓の外へと目をやる。外は静寂に包まれ、時空を超えた風が吹き抜けていた。その風が古い記憶を運んでくるような気がした。風が、筆者の存在を通り過ぎる時、冷たさとともに、新しい未来への恐れと期待が混じり合い、誰もが持つ孤独感を感じさせる。
青い時間が流れる中、筆者は深呼吸を一つ。そして、再び筆を取り上げる。決断はした。未来への一歩を踏み出すために、今持っている記憶を未来に持ち越すことを選んだ。新しい記憶はまだ形を成していないが、旧世の記憶を糧として、さらなる創作活動に臨む決意が固まる。
最後の一筆を紙に落とし、筆者は微かに笑みを浮かべる。過去を背負い、未来へと歩む。この塔の中で、筆者は自分自身の存在意義を見出したのだ。
そして、静寂の海へと消えゆく言葉たち。それは、喧騒とは無縁の、ただ一人の旅。
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