海は青かった。砂浜に立つ者にとって、無限の広がりを持つその青さは、空と見間違えるほどだった。彼が砂に足を埋める度に、潮風が頬を撫で、音もなく海は彼に語りかけた。彼の世界では、海は生命の源であり、孤独の友であった。
時空を超えたこの場所では、太陽の出る方角も異なり、地平線は曖昧に消えていた。彼は毎日、その曖昧さを見つめては、自身が何者であるのかを問うた。彼の記憶には、他の存在との関わりが微かにあるものの、対話する手段は持たず、海の音を聞くことでしか感情を知ることができなかった。
ある日、異変が訪れた。海の色が変わり始めたのだ。初めは深い青から薄暗いグレーへと変わり、やがてその色は赤みを帯びてきた。彼はこの変化を恐れた。海が語る言葉も、温かな慰めから怒りや悲しみへと変わっていった。
彼は何度も砂浜を歩き、変わる海を見つめた。海からの慰めが失われ、彼の内に孤独が満ちていくのを感じた。しかし、変わっていく海を見るうちに、彼はある決意を固めることにした。海がもたらす感情を受け入れ、それと共に自己を見つめ直すのだ。彼は自分の存在理由や、この場所にいる目的の一端を理解し始めた。
日々、海は彼に異なる色を見せ、異なる感情を感じさせた。彼はそれら全てを受け入れ、自らの内面と向き合った。そして、ある晴れた日、海は再び青く輝き始めた。彼はその日、砂浜に腰を下ろし、眼前の青さを見つめながら深く思索した。
海が示す感情は、現代人が抱える孤独や葛藤を象徴していた。彼は自らが体験した海の変化を通じて、それらの葛藤にどう対処すべきか学んでいたのだ。青い海は彼に、すべての感情が自らの内部に起源を持つことを教えた。そして、それらを受け入れることが、内面の平和につながるということも。
彼が砂浜から立ち上がる時、彼の足元には小さな貝が一つ転がっていた。その貝は彼の孤独と共に過ごした長い日々の象徴であり、海が彼に贈った最後の贈り物だった。彼はそれを手に取り、小さな貝に感謝の意を込めると、海に向かって軽く投げた。貝は静かに水面に沈み、波紋を残した。
海と対話するではなく、ただ静かに見つめる。その中で、彼は新たな自己を見出し、かつての葛藤への理解を深めた。彼が海を後にするその日、風が彼の頬を撫で、また新たな孤独に向かって歩き始めた。
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