光が滲む空間に、ひとりの存在が静かに佇んでいた。その場所は、時間も空間も融合した透明な世界で、厳として変化が訪れない。存在は何かを待つように、果てしなく続く白い霧の中を歩んでいた。周囲は無音で、たまに耳鳴りのように低い音が響くだけである。
この存在には名前がない。名前を持たないために、周囲からの視線も期待も無い。しかし、彼の内には独自の葛藤があった。彼の世界では、生まれた瞬間からすべてが定められており、個々の行動や感情、思考までもが予測可能だった。しかし、彼だけが何故かその枠組みから外れる存在であり、自らの直感に従うことでしか物事を進行させられなかった。
ある日、彼は霧の中で古老みたいな存在に遭遇した。古老は彼に「君の選択には意味がある。直感は古い時代からの贈り物だ」と告げた。それは初めて語りかけられる言葉だった。彼はその言葉を信じ、自分の直感の源を探る旅を始めることにした。
彼が旅を続ける中で、小さな光が点々と現れ、それが徐々に彼を何かへと導いていることに気づいた。その光は時折、彼の内側にある何かを叩くように感じられ、彼はそれが自分の本能か、それとも何か外からの影響か判別がつかないままに進んでいった。
光が導く先で、彼は古い書物を見つける。その書物には、かつてこの世界が全く異なるものであったこと、そしていかにして現在の予測可能な世界が築かれたのかが記されていた。書物によると、本能や直感はかつては人々の主要な道具であったが、秩序と効率を求める過程で切り捨てられたのだという。
彼はその知識を胸に、再び光を追い求める。そして、彼がたどり着いたのは、巨大な閉ざされた扉だった。光はその扉の隙間から漏れ出し、彼に開けるよう促しているようにも見えた。彼は直感に従い、扉を開く決断をする。その瞬間、彼の内部で何かが解き放たれる感覚がした。しかし、扉の先にあるものは彼が予想していたような知識や解答ではなく、ただ無限に広がる更なる霧だけだった。
彼はそこで理解する。彼の旅は終わりがなく、あるのはただ無限に広がる選択と可能性、そして自分自身の直感を信じることの重要性だけであると。彼は再び歩き出す。霧の中で、かすかに感じる風の温もりと、足元に生まれる小さな光の点々を見つめながら。
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