寂寞の色

世界の辺縁には、古の生物が孤独に暮らす。その生物は、形を変える能力を持ち、周囲の風景や生態によってその姿を変える。けれども、次第に覚えたのは、どの形に変わっても、内面の孤独感は消えないということだった。

黎明の霧が広がる朝、生物は山の形をしていた。鳥たちが飛び交い、その肩を休息の場としている。この形ならば、いつも誰かがそばにいる。しかし鳥たちは風を追い、そして去っていく。独りがずっと残った。

昼下がり、今度は大樹の姿をしてみる。迷い込んだ子鹿が、その陰で一時の安らぎを求める。安心しきった様子に、一瞬だけ何かを感じるが、やがて夕方には子鹿も母親のもとへと帰って行った。

そして夜、生物は星空になった。広大な宇宙の一部として、自分の存在を確かに感じる。けれどもそれは空虚な感覚で、繋がりを求めても、星々は遠すぎて触れることはできない。

時間が流れ、形を変える度に、生物は少しずつ学んでいった。形を変えることで得られる関係は一時的で、真のつながりとは何か異なる。それは、形や場所ではなく、もっと深いレベルでの結びつきを求めていた。

最終的に生物は、一番小さな形、石ころとして地面に横たわることを選んだ。その表面を流れる雨水の擦れる音、風によって運ばれる小枝が触れる感触に、ふと、外界との真実のつながりを見出す。

一雨ごとに、生物は周囲の世界と自分との間に流れる無限の絆を感じるようになる。孤独は消えてはいないが、それを受け入れつつも、季節の移り変わりや、自然との一体感に心を寄せるようになった。

後日、一人の旅人が石ころを手に取り、その重さを感じながら、何かを考える。石はただ静かに存在し、何も語らず、何も変わらず、ただ、存在し続ける。旅人は静かに石をポケットに入れ、その重みを感じながら歩き出す。そして少しだけ、その重みが心に残る何かを感じ取るのだった。

風が再び吹き、石ころの表面を優しく撫でる。一つの存在としての石ころに、世界は新たな色を与えた。それは音もなく、ただ、そこにあるだけ。

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