星の水

かつてないほど静かな星が一つあった。その星は人々が住む町と森とを孤独に浮かべ、小さな湖が中心にあつまる構造だった。町の人々は湖の水が時間を映し出すと信じていて、その湖へ願いを込める水を持ち寄る風習があった。

湖から遠い孤独を味わう森の中心に、木々よりも古い石の造形物がひっそりと立っていた。その石は年月を経るごとにさらに大きな孤立を深め、自身の存在を問い直し続けていた。

石は誰からも見向きもされず、名前もない。しかし石は感じる。朝の光が森を通り抜ける音、夜になって星が湖面に映る光。そして、町からやってくる唯一の訪問者――青い布を纏った存在。彼は定期的に石のそばに来ては、言葉を発することなく、ただじっと石を眺める。そして彼の存在もまた、石にとっての孤独を一時的に解消するかのようだった。

青い布の存在は、町の人々が湖の水に託す時の流れと同調し、彼らが抱える選択の重みを知っている。ある日、彼は石に話しかけた。「君も、私たちと同じく、時の流れを感じているのか?」石は答えない。しかし、風がその答えを代わりに運ぶかのように、青い布の存在の顔に触れた。

時間が経つにつれ、青い布を纏った存在は老い、その訪問は間隔が長くなり、やがて訪れなくなった。その孤独は再び石に重くのしかかり、石は自分が何のためにここにあるのか、誰が自分を見ているのか、という問いを深く考え始める。

ある晩、石のもとに小さな光が射した。それは新たに青い布を纏った別の存在だった。若い存在は、先代から受け継いだ布を纏い、前の存在と全く同じように石に対峙した。若い存在が初めて言葉を発する。「君は私たちと同じ。私たちは皆、孤独を共有している。そして、孤独の中で自らを見つめ、時と対話する。」

それからも、石のもとへ訪れる青い存在は代替わりを続け、石はゆっくりと時間が流れ、外界との関わりを変遷させつつ孤独を育てていった。

そして、湖の水は静かに時を映し出し続ける。星の水が、静かに、ただ静かに。

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