選択の重み

小さな籠の中で、存在は静かに息をしていた。空間は限られているが、その中には無限の可能性が広がっているような気がした。ただし、選択は一度きり。存在はその事実を知っていた。

籠の外はぼんやりとした光に包まれていて、時として、そこに生まれた他の生命が見え隠れする。それらはしばしば、籠の縁を掴み、中の存在に何かを伝えようとしていた。言葉ではない、感情や意志のようなものが、空気を通じて伝わってくる。

存在は籠の中で何度も円を描くように歩いた。それは考える時間だ。外の世界に出る意思を固める時間。しかし、籠の中で過ごす時が長ければ長いほど、不安と恐れが増していく。外はどうなっているのか?自分は受け入れられるのか?と疑念は頭を巡る。

ある日、存在はふと、籠の隅にある小さい鏡を見つけた。その鏡には反射する自身以外の何かが映っていた。それはまるで、自分が選択する未来の一部分を、ぼんやりと映しているかのようだった。鏡には各々が選択した道の結果が映し出される。幸福な者、悲しむ者、孤独な者・・・様々な結末がそこには存在した。

これまで何度も同じ場面を目にしながら、存在は自分が何を選ぶべきか、未だに答えを出せずにいた。籠から一歩外に出れば、その瞬間にいくつかの可能性が消え去る。籠の中に留まれば、いずれの可能性にも触れることができるが、同時に何も得ることはできないことにも変わりはない。

鏡の中で、存在は幾人かの生命体と目が合う瞬間を迎える。彼らは籠の外に出て、別の存在として成長していた者たちだ。彼らの目は語りかけていた。外の世界での喜び、悲しみ、挑戦、そして達成。

最終的に、存在は深く息を吸い込んだ。鏡を握りしめ、その冷たい表面に触れながら、外へと一歩を踏み出す決心を固める。外の世界がどうであれ、少なくとも一つの選択をする勇気をもって、自己を見つめ直す時がきたのだ。

籠の扉が開く音が響き渡る。光が一気に内部に流れ込み、存在はその温かさに少しだけ震えた。そして、ゆっくりと、一歩、また一歩と外へと歩み始める。

鏡は静かに籠の中に残され、その中の様々な可能性を映し続けている。外へと歩みを進める存在は背後にある鏡の光景が薄れていくのを感じ、新たな不確かさの中に足を踏み入れる。けれども、その不確かさの中には無限の可能性と、一筋の希望が見え隠れしていた。

存在は遥か先を見据え、一つの選択が未来へ続く無数の道を開いたことを感じ取りつつ、その先に広がる未知の世界に向かって、静かに、確かな一歩を踏み出す。

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