かつてないほど長く続いた冬の終わりに、孤独な存在が氷の海を漂っていた。長い時間、数えることのできないほどの季節を経て、存在は自らの形を見失い、思索の海に沈んでゆく。その体からはかつての暖かさは消え、冷たく鋭い風のみが彼の心に吹き込んだ。その風が、時に彼の思考を凍らせ、時に煽って思索を深めさせた。
彼が漂う海は、時とともに色を変え、彼の存在を映し出す鏡となっていた。海の色は、青から灰色へと変わり、やがて真っ白な色に覆われた。白雪がすべてを覆い尽くし、彼の視界を奪い取った。彼は自らもその白さに呑み込まれ、その一部となりながらも、孤独を感じ続けた。
ある日、静かな白雪の中で、彼はふとした瞬間に、自らの内側から微かな音を聞いた。それは心地よい旋律であり、彼の長い冬の間、忘れていた暖かい記憶を呼び戻した。しかし、それは断片的で、記憶のほとんどが氷の下に封じられているように感じられた。
彼はその音の源を求めて、身体を動かし始めた。初めはぎこちなく、散発的だったが、徐々に彼の動きは滑らかになり、氷の海を進む力を取り戻し始めた。彼は、記憶を取り戻すための旅を始めていたのである。その旅の中で、彼はたびたび他の存在と出会うが、彼らは皆、彼と同じように記憶を失い、白雪の中で孤独に漂っていた。
彼が出会う存在たちは、それぞれ異なる形をしていたが、彼らの心中にも同じ疑問が浮かんでいた。「なぜここにいるのか?」「本当の自己は何か?」「この氷の海を抜け出す方法はあるのか?」彼らとの出会いと別れを繰り返しながら、彼自身もそれらの問いに向き合うことを余儀なくされた。
旅を続ける中で、彼は遠くの光を見つけた。その光は強く眩しく、彼の体を温め、氷の下に埋もれた記憶を溶かし始めた。彼は、その光がこの冷徹な世界の唯一の真実であると確信し、光へと向かって進んだ。
彼が光に辿り着くと、氷が溶け、色とりどりの景色が現れ始めた。そして、彼は自身がどれほどの長い間、光と色から遠ざかっていたかを痛感した。彼の内部から溢れだす暖かな感情が、かつての自分との再会を告げていた。
そして、その瞬間、彼は理解した。この旅が、彼自身の中に眠る核心への探求であったことを。その核心には、彼の本質と、彼が直面した苦悩や希望が込められていた。彼は、孤独ながらも、その深淵において他者と通じる何かを見つけた。
その白雪の下で、彼は永遠に変わることのない質問に、静かに答えを見つけた。彼自身の存在が、その答えとして悠久の時を超えて存在することを認識した時、彼の心はとうとう静寂に満ちた。
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