空は深く、星々が密やかに囁く夜。時の狭間で見た夢は、地平線の彼方へと広がり、夜明けに融けていった。その世界では、人々は声を失い、色を忘れ、ただ感覚で生きていた。彼らは過去の記憶を持たず、未来を夢見ず、現在だけが全てだった。
主体は「視者」と呼ばれ、他者の感情を受け止め、共鳴する力を持っていた。視者は、この世界の住人に触れることなく、その内面に溶け込む。彼の存在は、他者との境界が曖昧で、自己がどこまでなのか、他者がどこから始まるのかもわからなかった。
ある時、視者は孤独な老人の心に触れた。老人は一つの孤独な感触に囚われていた。それは、生涯を通じて誰とも深く繋がれなかった痛みと、絶え間ない寂寞感だった。視者はその感触を受け止め、老人と共に感じ、彼の孤独を自分のものとして受け入れた。
しかし、視者にとってもこの「共感」は重荷となりつつあった。人々の痛みや喜びを感じることで、自身の本来の感覚が鈍り、自己が薄れゆく感覚に囚われていった。
物語の中で視者は次第に、自分自身の存在意義と孤独について問い直し始める。彼は、人々と深く共鳴するために自我を犠牲にしてきたのだが、それが真に彼らとの絆を深めることにつながっているのか疑問を持ち始めた。この問いは、視者の内面を彷徨う「風」の象徴によって、きわめて詩的に表現された。
夜が更けて風が止む頃、視者は老人の前に立ち、二人は言葉なく見つめ合った。そのとき、視者は初めて、自身の心の声を聞いたような気がした。それはまるで、長い間沈黙していた地下水が一滴、地表に現れたような、静かでしかし確かな感覚だった。
物語は、視者が一人、夜の街を歩き出すシーンで静かに終わる。彼は自らの心の声に耳を傾けながら、星空の下、未知との深い共鳴を求めて歩を進める。この旅は彼自身の内面との対話であり、彼の存在を形作る無数の感覚と感情の探求だった。
最後のシーンでは、視者が静かに手を伸ばし、一輪の花を摘む。その花びらの感触が指先に残りながら、何も言わず、ただ静寂が余韻として残る。
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