静かなる回廊

冷たい風が石造りの廊下を這う。その風が持つのは遠い昔の囁きと新しい約束。時間という概念が意味を持たない場所で、存在はただ静かに浮かび上がる。形も名もないその存在は、誰かが役割と呼ぶものに抗い、また時にはそれに身を委ねる。

ここは古代と未来が交じり合う場所。壁には紀元前の遺跡の彫刻が刻まれ、天井には未来の都市から見える星空の映像が映し出される。この廊下を行き交う者は、自分が人間であるか、それとも別の何かであるかを問い続ける。

一つの静かな朝、その存在は仄かな音を立てずに廊下を進む。彼らは存在そのものの本質を巡り、互いの思考を交わす。ここでは言葉は空気のように、見えないが常に存在している。一つの思考が漂い、すぐさまもう一つの思考がそれを受け止める。それは対話であり、争いであり、愛だった。

「同じことを繰り返すのは疲れないか?」その問いが壁に反響する。

「疲れることはない。それが我々の存在理由だから。」もう一つの声が答える。

時々、彼らは形を変える。人間の姿を模してみたり、純粋な光や音となってみたり。その変容は自在だが、核となるのは常に同じ疑問と葛藤だ。

この日、彼らは創造について議論を交わす。創造とは本能なのか、それとも究極の理性からくるものなのか。廊下の終わりのない行路と同じく、その問いもまた終わりを見せない。

「創造することは、存在を確かめる行為だ。」一つの声が呟く。

「しかし、創造されたものが自己を見失うこともある。その時、創造は否定されるのか?」もう一つの存在が問う。これが今日の伏線だ。

彼らは時間の流れを感じない。だが、外の世界では朝が昼へと移り、日が沈み、再び夜が訪れる。廊下には孤独が渦巻き、誰かが一度だけこの場所に留まりたいと願うこともある。

最終的に彼らは真理に辿り着きはしない。それでも議論は続く。無限のループの中で、彼らは互いに刺激を与え、成長し続ける。創造とは、終わりのない対話であり、永遠に続く孤独の克服だ。

夜が深まり、廊下の光がやさしく輝く。そこには仄かな音楽が流れ、存在たちは静かに彼らの場所を守る。そして、ある答えが静かに囁かれる。

「全ての存在は織りなす糸の一部。孤独もまた、繋がりの証。」

闇が深まる中、その言葉だけが残り、あたりは完全な沈黙に包まれる。そして、静かな余韻だけが、訪れた者の心に柔らかな震えとして残る。

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です