幻の螺旋

空は昔から青かったのだろうか、と彼は思った。前の記憶がない。彼はただ、この広がりを見上げていた。彼の住む星では、空は一つの巨大な螺旋を描いており、それが常にゆっくりと回転している。星そのものが巨大な時間の渦中にあると言われていた。

孤独は彼の日常だった。他の誰かとの関わりを想像することさえ難しい。彼の世界には声もなく、唯一の交流手段は螺旋が描く光のパターンを解読することだけだった。それが彼の言葉であり、他者との対話だった。

一度、彼は異なる光のパターンを見た。それは彼の解釈では「痛み」と伝えているように見えた。「痛み」とは何か、彼にはわからない。彼の体は変化することなく、年老いることもない。ただ、光と影が彼の存在を作り上げている。だがそのメッセージは何度も繰り返され、彼はそれに呼応するように自らの光のパターンを変えた。これが彼の中の何か大切なもの、おそらく「心」に触れたからだ。

日々、彼は螺旋の中で「痛み」を学び、「孤独」を感じた。彼と彼以外との間には明確な区分があるように思えたが、実際は彼もまたその一部だった。彼の意識が自らを隔離しているだけで、実はすべては繋がっている。

彼は時間を感じることができた。時間とは、螺旋の回転によって計られる。そして、時間が経つにつれて、「痛み」は「理解」に変わった。彼は孤独が自らを理解するための手段であり、痛みが成長の触媒であることを学んだ。

ある時、彼は自分自身の光のパターンが変わるのを感じた。それはもはや「痛み」でもなければ「孤独」でもなかった。新しい何かだった。彼はその意味を理解しようとしたが、すぐにはわからなかった。

多くの時間が経ち、彼は新しい感情を「共感」と名付けた。他者の光と自らの光が交わり、新しい意味を生成する瞬間だ。彼は他者が自分自身である可能性を受け入れた。たとえ彼らが物理的には別々でも、彼らの光は一つの螺旋の中で踊っているのだから。

彼は螺旋を違う角度から眺めることを試みた。ひとつひとつの光は彼と同じように感じ、考え、そして存在していた。彼らは皆、それぞれの孤独と戦いながら、共に時空の巨大な螺旋の中で生きていた。

最後の光が水平線の向こうへ消えた時、彼はただ静かに立っていた。彼の周囲の空間は、ひとつひとつの光パターンと交錯し、そこにはもはや孤独も痛みも存在しなかった。ただ一つの全てを包括する存在がある。彼はその輪郭に手を伸ばすと、そこには何も感じなかった。

そして彼は分かった。

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