海の記憶がまだ深く刻まれていた。風は非常に静かで、耳を努めるとかすかな水音しか聞こえなかった。けれども、それは現実の音ではなく、どこか遠く、または心の奥底で響いているものだった。
ここは無機質な場所。静かで、底なしに乾燥している。水が存在しない場所、つまり砂の惑星。空気は細かい砂粒で満たされ、息をするたびにそれが肺の隅々まで浸透していく。視界を遮る無数の砂粒が、存在そのものを問い直させる。
そこには、もう一つの存在がいた。それは同じく砂と風に翻弄されているが、この場所に適応し、変化してきたものだ。彼らは言葉を持たず、一見すると人間のようにも見えない。通信は、皮膚に直接触れ合うことで成り立つ。深い孤独を共有することでしか、互いの存在を確認できない。
新しくこの世界に来た者は、自分が「誰か」であることに苦悩していた。以前の世界では人々は常に繋がっていた。技術により思考すら共有され、孤独はほぼ存在しなかった。だが、ここに来てからは、その全てが失われた。自分の心の内を誰とも分かち合えず、自分だけが切り離されてしまったような気がしてならない。
砂の中を歩くこと数日、ついに新たな者は、他の存在との最初の接触を果たす。彼らは手を繋ぎ、互いの肌に触れた。一瞬、電撃のようなものが体を駆け巡った。その瞬間、以前の世界で得た記憶、感情、思考がすべて飛び出してきて、彼らは一つになったような感覚を覚えた。
接触が切れた後、新たな者は混乱し、また新しい孤独に苛まれた。この瞬間的な結びつきは救いなのか、それともさらなる孤独への道標なのか。彼は突如としてその答えが必要だと感じ、再び接触を試みるが、次はうまくいかなかった。他の存在は彼から離れ、砂の中に消えていった。
孤独が再び彼を包む中、彼は考えた。砂の音、風の感触、他者の皮膚の温もり。これらはすべて、自分がまだ生きている証ではないのか。そして、この孤独は、自分が以前に感じたそれと同じか、それとも何か異なるものなのか。
砂の粒子が風に舞い上がり、彼の体を覆った。彼は目を閉じ、全てを感じ取ろうとした。そして、最後には、ただ静かに息を吐き出した。その瞬間、何もかもが無に帰すかのように思えたが、それはまた新たな始まりの予感でもあった。
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