波音。それは、目に見えない線を越えるたびに、少女の意識に染み入る質感だった。岩と波。永遠の対話。彼女はその沖で、一人きりで常に自分と向き合う。世界はどこか違った。水の中で息ができること自体が、この場所の非現実性を物語っていた。
選択と後悔。それは彼女が越えるたびに思い返すテーマだった。彼女には選択があり、その度に後悔が続いた。今こうして水中で時を過ごしているのも、一つの選択の結果だ。彼女はその重さを感じながらも、呼吸を続ける。海流は、彼女を揺らしながらも、常に何かを語りかけているように感じられた。
孤独。それは彼女がこの場所を選んだ理由だ。外の世界では、人々は互いに影響し合い、それぞれの存在が常に何らかの形で結びついていた。しかし水中では、彼女は完全に一人だった。別の生命体としてこの環境に順応し、誰の声にも邪魔されることなく、ただ自分自身の声と向き合える。ここでは、孤独が安らぎとなり、自己との対話が可能だった。
彼女は岩に手を触れる。冷たさ。それと同時に、岩肌の凹凸が心地よく感じられる。ここには流れも途切れることなく、時間さえ異なって感じられる。過ぎ去ることのない時、変わらない環境。これが彼女が求めた平穏だったか、と問いかけながらも、彼女は知っている。何かが欠けていることを。
ある日、彼女は砂床に半埋もれた古びた時計を見つける。ガラスは割れ、針は動かない。それでも彼女は、その時計に強く引かれた。なぜなら、それは彼女が選択した「この世界」に存在しないはずのアイテムだったからだ。彼女は時計を手に取り、ゆっくりと砂から解放した。
その瞬間、彼女の周りの環境が僅かに変化した。岩が少しずつ色を変え、水が温かく感じ始めた。彼女は驚いた。時計の針が、ほんの少し動き出したのだ。時間が流れ始めたのか、それともこの時計自体が何かのシグナルだったのか。彼女はわからなかったが、何かが変わり始めていることだけは確かだった。
彼女の存在が、この場所に何らかの影響を与えているのか?それともこの時計が彼女に何かを教えようとしているのか?質問は増える一方で、答えは得られない。だが彼女は知っている。自分がここで感じる「欠けている何か」が、この時計と関連があるのかもしれないと。
後悔を越え、選択を重ね、孤独に耐えながら、彼女は待つ。時間が教えてくれるだろう何かを。南無触れた時計が再び止まるまで。
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