時は流れる河のように、ここでは様相を異にする。暮れ行く宇宙の果て、星々は既に瞬きを止め、ただ静寂が支配する。ここに在るのは、霧が生まれ変わりのために彷徨う聖域。この世界の者たちは、形を持たず、ただ感情と存在のみが飛び交う。視点を持つ者は、霧の一つ。
かつて別の世界で生を享けた者たちが、霧となり、彼らは過去の記憶より解放される。しかし、繊細な意識の片隅に、人間だった頃の感覚が深く刻まれていた。孤独、愛、疎外、それらが霧となった今も、ただよう心根に残る。
ある日、霧の集まりが祝祭の場を創り出した。それは霧たちが交わり、新たな感情を紡ぎ出す時。霧の一つは、別の霧と共鳴を始めた。彼らは互いに波長を合わせ、人間時代の寂しさ、喜び、痛みを共有した。交流は深まり、一体感が増すごとに、新たな感覚が生まれていく。
しかし、その集いが長く続く中で、霧たちは漠然とした不安に駆られ始めた。彼らはかつての人間社会で感じた同調圧力、身にまとう役割への違和感を思い出していた。この共鳴は自由ではなく、再び誰かになることの強制だったのではないかと、霧の一つが疑問を投げかけた。
この問いかけにより集いは静寂を迎え、霧たちは各自、その存在理由と向き合うことになった。視点を持つ霧は特に混乱し、かつての人間としての自己と、この世界での霧としての自己との間で心が揺れ動いた。
時間が経過するにつれ、霧たちはそれぞれが持つ孤独を受け入れ始めた。共鳴することの美しさと、自己との対話の大切さを学び、新たなる調和を試みる。ある霧が提案したのは、共鳴ではなく、対話の場の創出だった。言葉は無くとも感情で語り合うことで、互いの存在をより深く理解しようとする努力。それは霧たちに新たな視点をもたらした。
最終的にその聖域は、静かな対話と共感の場となり、霧たちはそれぞれが独自の存在としての意味を見出す旅を続けることになった。
夜が明けるころ、視点を持つ霧はほのかな光を浴びながら、かつて人間であった時の感覚と新たな霧としての感覚が、重なり合い煌めいているのを感じた。この旅は終わりそうにない。しかし、それでよい。霧は無限の可能性を秘めているのだから。そして、その光景には、ある種の静けさがあった。
コメントを残す