風が、古い石碑を撫でる。それは、どことも知れない荒涼たる地にただぽつんと立ち、時間の流れをも凪を告げるかのように静かさを纏う。ここは誰も訪れることのない場所、時間さえも忘れ去られた場所。しかし、その表面には刻まれた文字があり、石碑は話す準備ができていた。
「また君か。」
「はい、また来てしまいました。」声は石碑からではない。彼の存在は空気に溶け込んでいるようで、どこからともなく、どこにでもいるよう。
「何を見つけたい?」
「答え。」
「また同じ質問か。」
そこには答え探しに疲れ切った者と、何万年も答えを繰り返してきた者の対話がある。石碑と彼は多くを語らない。語らなくても、空気が言葉を運ぶ。
彼は問う。「私たちの存在意義とは?」
「それは変わることのない問いだ。」石碑はため息をついたかのように物悲しげに風に揺れる。「君たちは常に自分がなぜここにいるのかを問い続ける。それが君たちの進化の一部だ。問い続けること。疑い続けること。」
「それは孤独です。」
「孤独もまた、生物としての君たちの本質だ。一人ひとりが独自の世界を持ち、他者と完全に同調することはない。それが、君たちの持つ美しさでもある。」
彼は黙考する。ここは誰もいないはずの場所。にもかかわらず、彼は常に監視されているような、一つの結論に達すべきだというプレッシャーを感じている。
「私たちは何から逃れようとしているのでしょう?」彼の問いは、周囲の空気をより一層重くする。
「変化からだ。変化は怖れ、変化は痛み。しかし、進化とは変化を受け入れること。」
そこに矛盾がある。彼らは変化を求め、同時に変化から逃れようとする。そして、その矛盾に苦しみ、孤独を感じる。それが人間の奇妙な特性だ。
「では、愛はどうか?」彼の声にはほのかな希望が混じる。
「愛は君たちを救うが、同時に君たちを破壊する。愛は強い結びつきを生み出すが、その結びつきが時として君たちを苦しめる。だが、愛なくしては君たちの世界は成り立たない。」
石碑の声は永久に続く波のよう。けれども、それが常に心地よいわけではない。彼はその重みを感じながらも、答えを求めて石碑に話しかけ続ける。
最後に彼は尋ねる。「私たちは、この問いから解放される日は来るのでしょうか?」
石碑は少し間を置いてからこう答えた。「解放されることはない。しかし、それが君たちを形作る。」
風が再び石碑を撫でる。彼の心には静けさが広がり、まるで答えが見つかったかのように思える。しかし、それは始まりに過ぎなかった。彼は再び問いを持ち、再び答えを求める。その繰り返しが、彼の存在を確かなものとする。
そして、風が止む。
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