彼岸に咲く花

年老いた海の目の前に、小さな島が静かに存在していた。島には花が一輪、孤独に咲いている。海は日々その花を見守り、自らの波が時折その島に触れるのを待っていた。海と花の間には話すことができないが、海は自分の波を使って情感を伝えていた。

ある日、海は異変に気づく。その花が徐々に色を失い、元気もなくなってきたのだ。しかし、海は直接何もできない。ただ、一日に一度、波を送り花に触れることができるだけだ。海は自分の波を通じて、花に元気を送ろうとした。でも、花の状態は改善されなかった。

海は何度も何度も試みたが、花はますます弱っていく一方だった。そして、海はある決断をする。それは、自らの一部を削り取り、花に送るというものだった。海は自らの波を大きくし、その一部を花の島に送った。海の一部が花に吸収されると、花は少しずつ色を取り戻し始めた。

しかし、その行為には大きな代償が伴っていた。海自身が小さくなり、以前ほど多くの波を送ることができなくなったのだ。海は自らの存在を削ることで、花を救う選択をしたが、それにより自身もまた危うい存在となり、やがては完全に消えてしまうだろうと感じた。

それでも海は後悔していなかった。花が再び生き生きと咲き誇る姿を見ることができたからだ。海は最後の力を振り絞り、もう一度大きな波を花に送った。その波は以前のものとは比べ物にならないほど強く、島全体を包み込んだ。

翌日、海が目を覚ますと、島も花も見えなくなっていた。ただ、空には美しい花の色が広がり、海全体を温かい光で照らしていた。海は知った、花が自分の一部となり、新たな存在へと変わったのだと。そして、海は静かに消えゆく中で、この変化をしみじみと感じ取った。

もう話すことはできない。けれども、海と花は新たな形で永遠に繋がっていることを、海は感じていた。そして、この静かな終わりに、何も言うことはなかった。

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