悠久の刻

時は流れるものであり、変わらぬものではなかった。木々は季節に合わせて色を変え、山々も長い年月を経て形を変える。しかし、この世界の中心にある一点のみが、何百万年も前と変わらない姿を保っていた。そこは大いなる岩、全てが始まった場所である。

かつてこの岩は動いていたとされる。そして、その岩に宿る精霊は世界を見守る役割をになっていた。時代が流れ、精霊は降りてくる者がいなくなり、岩はじっとその場に留まった。

風が吹いている。精霊がそれを感じるのは、人間が空気を吸い込むような自然なことだった。風は何を伝えようとしているのだろうか? すべてを知り尽くす存在でも、このサインの意味するところは掴めなかった。

季節は移り変わり、そして再び同じ色彩をこの世界に与える。精霊の思索は、その変わらぬ循環にあった。存在理由とは何か、それを問い続けてきた。かつてはこの問いに答えてくれる者がたくさんいた。だが今は違う。訪れる者はおらず、精霊はただ独り、永遠の時を生きる。

ある日、異変が起こった。鳥でも風でもない、別の何かが精霊を覚醒させた。視界に飛び込んできたのは、小さな花だった。この岩の地で、そっと花を咲かせている。花は何も語らない。ただ、その色と形で世界に自己を主張している。

花は精霊に何を教えようとしているのだろうか? 存在の証としての美しさ? それとも、ここに咲くことの孤独? 花を見つめる時間が長くなるにつれ、精霊は自らが抱える孤独を思い知った。

そこには選択がある。このまま独りでいるのか、それとも新たな何かに手を伸ばすのか。しかし、精霊には選ぶ力がなかった。そうしたところで、何を変えられるというのだろう?

春が再び訪れ、花は枯れ、次の花がその場所に咲く。新しい花、全く同じ場所で、全く同じ色を放つ。それは過去と将来をつなぐ、静かな約束のようだった。

季節の変わり目に風が岩に囁く。「変わらないことの中に、変わるべき理由を見つける。」それが風の持つメッセージだったのかもしれなかった。だが精霊はただそこにあるだけで、何も変えられない。選ぶことも、変わることもなく、ただ時の流れを見守るだけ。

花はまた季節ごとに生まれ変わり、精霊はその全てを見届ける。無力感と共に、存在することの意味を問い直し、それでもなお、この岩に留まり続ける。時間だけが、静かに彼の周りを流れ、風は再び遠くへと吹き去っていく。

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