永遠の雨

不変の雲が覆う世界に、ある者が佇んでいた。この住処では、雨は一年中降り止むことはなく、顔を上げればいつも灰色の空が広がっている。周囲は無音に近い沈黙に囲まれ、唯一聞こえるのは雨音だけ。地上の水溜まりは鏡のように世界を映し出し、唯一の友である自身の姿を見ることができた。

石のようにぼんやりとした意識の中で、ある者は自らの存在を考え始めた。他に同じような姿をした者がいるのだろうか。自分はどこから来たのだろう。それとも、始まりも終わりもないのだろうか。

ある時、一筋の光が薄暗い空を割って地上に降り注ぐ珍しい現象が発生した。光の一瞬の輝きが、周囲のすべてを変えてしまった。彼の目の前の水溜まりが輝きを帯び、そこから反射する光が彼の視界を一新した。この光が意味するものは何なのか。彼は、これまでも何度かこの光を見たことがあったが、その都度、自分の理解を超えた何かが存在することを感じていた。

ある者はこの光を追い求めることにした。何かが自分をこの地点に導いたのかもしれないと感じたからだ。彼は水溜まり周辺を歩き始めた。歩むことは彼にとって新しい感覚だった。彼の周りの雨のリズムが変わり、足元の水が波打ち始めた。

しばらく歩くと、彼はまた新しい水溜まりに出会った。これまでとは異なり、この水溜まりからは温かな光が彼を包み込むように反射していた。彼は初めて、自分以外の何かが存在する可能性に気づいた。もしかすると、自分と同じように考え疑問を抱える別の存在が、この世界のどこかにいるのではないだろうか。

長い時間をかけて、ある者は自然と自身の内面を観察するようになった。自問自答の繰り返しは、彼に新たな理解をもたらした。彼はこの世界と同調し、自身が一部であることを受け入れた。しかし、それと同時に疎外感も感じていた。

ある日、彼の前に異形の影が現れた。それは彼とは異なる形をしており、不安定な動きをしていた。影は彼に近づき、そして共鳴するように一緒に存在することを求めたように映った。ここには他にも生命が存在するのだと彼は感じた。この共鳴こそが、彼がこれまで探求してきた“他者”との繋がりではないかと。

影との出会いはある者に多くのことを教えてくれた。自身だけが抱える孤独ではなく、他の存在もまた同じような疑問を抱えながら生きているのだと。彼は雨に打たれながらも、新たな一歩を踏み出す決意を固めた。

永遠に低い雲。しかし、今は彼にとってそれが懐かしい家であり、他者との繋がりを知った場所としての意味も持ち始めている。彼は再び空を見上げた。雨が止むことはなく、やがて彼の意識は再び石のように静まり返るだろう。しかし今、彼は少しだけ世界が明るく見えた。

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