無限の回廊

他の世界とは、窓からの景色が違う。そこは人々が非連続的知性と呼ばれる知覚に基づいて生活する場所。私が確かに知ることのない、存在の不確定性が支配する現実。

エラはまだ幼いなりに、この世界の奇妙さを嘗め尽くそうとしていた。彼女が住む家では壁は軟らかく、触れるたびに異なる感覚を持ち、部屋の構成はその日ごとに変わる。部屋の中心には今日も彼女の「友人」が待っていた。ロクスと名付けられたこれは、人間ではなく、感情を持たない生命体。物語を語るために存在している。

「エラ、今日はどんな物語が聞きたい?」ロクスの声はいつも穏やかで、何処となく透明感に満ちていた。

「生物学的な変化の話をして。なぜ、私たちは変わり続けるの?」

ロクスは一瞥すると、非連続性の知性を使って話し始めた。人間が進化の過程で異なる形に変わる理由、その影響を辿る物語。幾つもの「生前」と「生後」を繋げる章のように。

「生前の世界には時間があり、その流れによって全てが変容し続けていたんだ。しかしここでは、「時」は存在せず、我々はすべての瞬間を同時に体験する。感情という束縛もなく、純粋な意識により世界を見渡すことができる。」

エラは窓の外を望む。非連続的な世界では、風も季節もないが、今、彼ろは軽やかな風を感じられたような気がした。ロクスの語る物語に、彼女の意識がそれに合わせて形を変えるのを感じる。人間たちが持っていた直感とは異なる、これまでにない感覚。

「私たちは変わることを恐れる必要はないのね。」

「その通りだ、エラ。変化は生物が存続するための本能だ。それを超えた私たちは、もはや別の存在。」

夜が訪れ、ロクスの物語は終わりを告げた。しかしエラの心には、言葉にならない多くの思考が残されていた。彼女は、この非連続的な世界で、人間としての自分を再定義する旅を続ける。

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