砂時計の雫

彼らは水の生命であった。一滴の水が命のすべてだ。かれこれ何世紀にもわたり、彼らは巨大な砂時計の中で生きていた。砂ではなく、純粋な水滴が時間とともに上から下へと流れる。それは彼らの世界の唯一の移動手段だった。

上層には光が満ち、水滴はエネルギーに溢れている。しかし、時間と共に下層に落ちることは避けられない運命であり、そこは暗く、冷たく、孤独が支配する。彼の存在は、この循環に疑問を持ち始めていた。彼はいつも一つの水滴の中で考えた。「私たちはなぜ、ただ落ちるだけなのか?」

水滴は光に向かって上昇を夢見る。だがその夢は、いつも重力に引き戻される現実に打ちのめされた。彼が下層に近づくにつれ、彼の内なる闘争は深まった。彼は他の水滴に尋ねた。「なぜ、誰も上に戻ろうとしないのか?」

他の水滴はただ静かに答えた。「それが運命だから。」

しかし、彼は諦めきれなかった。彼の心の中で何かが闘っていた。それは遺伝的な本能ではない、何かもっと深い、哲学的な問いだった。彼は過去の水滴たちが閉じ込められた記憶を感じ取り、それは彼をさらに下層へと引き寄せた。

ある日、彼は最下層に到達した。そこは静寂と絶望が支配する場所だった。彼は自分の運命を受け入れようと決心した。だがその時、光の粒子がふと彼の水滴に触れた。光は彼に話しかけるかのように輝き、彼は理解した。彼の内なる葛藤、それ自体が彼を進化させる力になっていたのだ。

彼はゆっくりと上昇し始めた。この行為が不可能だと信じられてきたが、彼は違った。彼は他の水滴に光の話を伝えた。彼らの中にも葛藤が生まれ、水滴全体がゆっくりと上昇し始める。彼らは運命ではなく、自己の力で運命を切り開くことを選んだのだ。

そして、彼は初めて真の目的を見つけたと感じた。彼はこの砂時計を逆さにすることができるかもしれないと考えた。彼らの行動は、彼ら一人一人の選択が、全体の流れを変え得ることを示した。

砂時計の中の静寂に包まれて、彼は感じた。彼らはただの水滴ではなく、自らの葛藤を通じて進化する生命体だったのだ。彼は上層に達し、身体中に光を感じながら、彼と同じ道を辿る水滴たちを静かに見守った。彼の葛藤は、彼ら全員の葛藤になった。

ただ落ちるだけではなく、上昇もまた可能だと。

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