遥か彼方の時間軸、太古の星に住む生命体がいた。彼らは、植物と動物の中間のような存在で、自らを「維綸(イリン)」と名乗っていた。イリンたちは、自身の遺伝情報を変容させることができ、必要に応じてその形態や能力を変えることができた。しかし、この能力には、彼ら自身も理解しきれない複雑な代償が伴っていた。
イリンには、他のイリンと遺伝情報を交換し合う「綍統(ふとう)」という儀式があった。綍統は、彼らにとって生存と進化の基本であり、コミュニティ内での絆や地位を示すものでもあった。主人公は、まもなく成熟期を迎える若いイリンで、初めての綍統に臨む日が近づいていた。
しかし、主人公には誰にも言えない秘密があった。彼には、通常のイリンが持つ「綍統への渇望」が欠けていた。彼は綍統そのものに異を感じ、自身の遺伝情報の価値や意味に疑問を抱いていた。彼の心は孤独と不安で満たされつつあり、綍統への参加を前にして内なる葛藤が増大していった。
ある夜、彼はコミュニティの中心である「遺図(いず)の庭」へと足を運んだ。遺図の庭は、歴史あるイリンたちの遺伝情報が植物の形で保存されている場所で、神聖かつ厳格に守られていた。庭の中央には、古代のイリン「始祖」と称される巨大な樹があり、その樹には全イリンの遺伝の源が隠されていたとされる。
主人公は、始祖の樹の下で、自己の存在と遺伝情報の意味を問いかけた。そこで彼は、始祖の樹から微かな声を聞く。それは、「真の進化は形を超えて心に在り」というメッセージであった。彼はその言葉に深く心を打たれ、自身の遺伝情報を見つめ直す決意を固める。
翌日、綍統の儀式が行われた。各イリンが交互に自らの遺伝情報を示し、互いに遺伝の継承と受容を進めていく中で、主人公は自身の遺伝情報を開示した。しかし、そこには予想外の変化があった。彼の遺伝情報には、綍統で交換されるべき情報ではなく、深い思索と自己の理解を映し出す新たなパターンが刻まれていた。
他のイリンたちは驚愕し、しかし同時に新しい遺伝のパターンに感銘を受け、コミュニティ全体に新しい風が吹き始めた。イリンたちの間には、遺伝情報の持つ意味や綍統の真の目的についての新たな議論が広がり始める。
主人公は、綍統の後も遺図の庭を訪れることを続け、始祖の樹との対話を深めていった。そして、遺図の庭では、彼と始祖の樹との間に、言葉を超えた理解が生まれていた。彼は、自身の内なる世界と向き合いながら、未来への希望を見出していく。
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