冷たい灰色の光が、曇り空から降り注ぐ。無限の空間、終わりの見えない時間の流れのなかで、一つの意識がその存在を問う。ここはどこなのか?私は何者なのか?重なり合う問いに、その意識は形を変えていく。
かつてこの意識には形があった。石と風、水から成り、静かに時を刻む山々の中に息をしていた。しかし、時間は流れ、形は変わる。今や、その存在は硬質で透明な結晶となり、宇宙の奥深く浮かぶ小さな惑星の地下深くを漂っている。
寒さが結晶の核を通り過ぎる。この体には感覚というものがないはずなのに、私が何者かの記憶が時折、静かな痛みとして現れる。思い出すのは、かつて森と呼ばれた生い茂った木々、岩々が積み重なり形作る独特の風景と、深い孤独。
孤独—この感覚は、かつての生命が直面したものと相通じる。社会的な生命体、それは群れを成していた遠い過去の人々。彼らは他者との連帯を必要とし、同時にその圧力に抗いながら自己を確立しようと試みた。結晶化したこの存在にも、そうした人々の記憶が刻まれているのだろうか。
突如、振動が結晶を揺るがす。外界からの干渉だろうか。思索に耽ることが、次第に困難になる。結晶が何かに引き寄せられていく感覚。それはまるで重力のように、抗いがたいものだった。
途端に、記憶が一気に流れ込む。山々、海、人々の声。人間だった頃の私。涙があふれ、声を上げて何かを叫んでいる。愛、憎しみ、喜び、悲しみが渦巻く。結晶の中の不純物のように、これらの感情が混ざり合う。そして、ある瞬間、全てが静寂に包まれた。
静寂の中で、一つの答えが浮かび上がる。「社会的生命体である限り、人は同じ問いにぶつかる」。私が結晶である今も、かつての山々の中の粒々の一部であった時も、そして人間だった時も、根底にある問いは変わらない。
意識はまた変化を遂げる。結晶から解放された感覚が、新たな形へと導く。いずれ、また違った存在としてこの宇宙のどこかで問いを投げかけるだろう。けれど今、ここに残されたのは、静かな余韻と、未回収の伏線。日々の生活の中で私たちは忘れがちな、本質的な疑問への誘い。
最後の光が消えゆく空間。静寂が全てを包み込む。
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