余白の街

過去と未来を繋ぐ一本の鉄道がある。なのに、誰もが一度乗ると二度と降りられないという。この街はその鉄道の終点で、彼と私だけが住人だった。

彼は毎日、駅のプラットフォームで過去から来る者を待っている。彼の言葉によると、彼らは「色を失った時」と呼ばれる瞬間を過ぎた存在だとか。彼と私は、色を持つ。他は全てモノクロームであるため彼らはすぐに分かる。ある日、彼は「希望の蝶」を見たと言った。蝶は私たち以外の者には見えないそうだ。彼はそれを追ってどこかへ行ってしまい、その日から彼は帰らなかった。

私は一人残された。黙々と駅の掃除をし、モノクロームの人たちの乗り降りを見守る日々。蝶を探したくても、一度も見たことがない。彼の存在は次第に風のように薄れていった。けれど、彼がいたこと、彼が何かを深く信じてたことだけは忘れられない。

ある夕暮れ、風が駅を通り過ぎる際に、一枚の落ち葉が私の足元に舞い降りた。それは奇妙な形をしており、何となく蝶に似ていた。手に取ると、その葉はほんの少し、色を帯びているように見えた。私はその葉を大事にポケットにしまい、目を閉じて彼の言葉を思い出す。

駅前の空き地には、彼が好んで座っていた古びたベンチがある。そこで私は夜が明けるのを待った。星は次第に薄れ、空は白み始める。そして朝日が地平を破る時、私は理解した。この街はもう私たちのために存在してはいないのだ。

私は駅を後にし、前に進むことを決めた。ベンチに落ち葉の蝶を残し、新たな軌道を探して一歩一歩歩き出す。彼が残した色は、私の内面で静かに宿り続ける。

そして、道なき道を歩きながら、彼が見たかもしれない希望の蝶を思い描いた。それはただの幻か、真実か。それをみつけるための彷徨は、まだ終わらない。

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