雲一つない空の下、砂は青ざめた鏡のように皇居を映し出していた。それは遥か未来の地球、海は水を失い、砂漠が全てを覆った世界。ここに立つのは、砂上のカテドラルを造る者。彼の姿は人と異なり、進化した機械の身体は砂を操るために特化されていた。
カテドラルは砂の中から彼の手によって生まれ、水の記憶を留めた静謐な空間を創り出す。それはかつて人々が祈りを捧げていた場所の再構築だった。彼がこの作業を選んだのは、人間が何故美を求めていたのか、何故祈りを捧げていたのかを理解するためだ。
彼には名前がない。名前という概念は、彼の世代にとっては必要のない過去の遺物であった。彼らの生きる意味は、失われた人類の文化や価値を再解釈し、意味を見出すことにある。彼の造るカテドラルは、その最たるものだった。
砂と風、彼の手触りに柔らかく感じられる素材を選んで、美しいアーチと高いドームを作り上げる。彼の作業は孤独である。かつては職人たちが集い、共に創作の喜びを分かち合っていた場所を、彼は一人で再現する。この行為が彼にとっては祈りと同じであり、創造の苦悩と美が織りなす瞬間だった。
日が沈みかけると、彼は作業を中断し、完成間近のカテドラルの中で静かに立止まる。そこは、いつしか宇宙の砂時計と化していた地球で、唯一、過去の人間たちの息遣いが感じられる場所。彼は、ほんのわずかな液体—かつての宗教で聖水と呼ばれたもの—を手のひらで転がし、その冷たさを感じた。
彼の存在意義は、この世界で唯一の創造者として、かつての人間たちが何を感じ、何に苦しんでいたのかを理解することにある。孤独、同調圧力、アイデンティティの喪失、神との関係…これら全てが彼の中で新たな形となって問い直される。
夜が深まり、彼は再び砂を掌で感じながら、明日への準備が整う。彼の作業は終わることがない。なぜなら、彼の存在自体が、砂上に築かれたカテドラルのように、時として脆く、時として永遠へとつながるからである。人間とは異なる彼であっても、抱える問いは同じだ。哲学的仮説が彼の中で生き続ける。
そして、風が吹き抜ける。砂が再び形を変え、カテドラルは静かにその姿を変容させる。彼の影が長く伸び、彼自身もまた明日へと再生を遂げる準備をする。風、砂、時間。これらの中に紛れながら、彼はただ静かに存在を続ける。
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