淡い光の中、彼は一人、暁の橋を渡っていた。静謐な風が髪をかすめ、遠く水面をつたう光の帯が彼の足元に届いては消えていった。時として、彼の足音だけが唯一の生命を告げる音となり、漆黒の海に吸い込まれていく。
彼の世界では、昼と夜が絶えず入れ替わり、暁の橋を渡ることで、一時的ながらも束の間の光を享受することができた。しかしその光は、いつも彼にとっては届かないものだった。橋は彼に永遠を感じさせ、彼の心の孤独は、海の静けさと同じように深く、冷たい。
この橋を渡るたびに、彼は自分の存在を疑った。彼がこれまで体験したことすべてが、はたして本当に起きたのか、それとも幻想に過ぎなかったのか。彼の記憶は時折、夢の中の出来事のように感じられた。
彼の足がふと止まる。橋の真ん中で、彼は海に向かって深く息を吸い込んだ。海はその息を吐き出された息のように霧となって彼の身体を覆う。
この橋を渡り始めた当初、彼は何も感じなかった。でも今、彼は初めて、橋のたたずまい、海の色、空の深さが語りかけてくることに気が付いた。それらは彼に、彼の孤独や疑問に答えてくれるかのようだった。だが答えは常に一つだけ、それは静寂と変わらない。
彼は歩を再び進めた。橋の端が見えてきた。向こう岸には彼と同じように橋を渡る者がおり、彼らもまた自問自答を繰り返しながら歩いていた。彼らは彼の側を通り過ぎ、一瞥も交わすことなく、それぞれの世界へと消えていった。
彼が一人残されたとき、橋の光はほのかに暖かみを帯び始め、彼の影が長く海に落ちた。彼の心にもわずかな温もりが差し込む。それは彼が長い間忘れかけていた感情だった。希望とも似た、しかしもっと静かで、もっと深い何か。
橋の終わりに立ち、彼は振り返った。遠く、彼が歩いてきた道のりが見えた。彼はその道のりが彼を形作ったとし、しかし彼が本当に知りたいのは、その先に何が待っているのかということだった。
橋から降りる前に、彼はもう一度深く海を見た。波は静かに彼の足元を撫で、そして彼の疑問を持ち去るように遠ざかっていった。彼はその場に立ち尽くし、海が彼に問いかけたこと、彼自身が海に問いかけたことを思った。
彼の前に広がる未知の道。彼はそれを歩き始める。
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