対話の断絶

古びた別人世界、色が失われ群青の光線が包む世界で、それは静かに存在していた。途端に息が冷たくなり、一つ一つの音がより明瞭に聞こえるようになる。場所と時間の感覚がぼやけ、存在が存在であることを忘れ始めた。

ここは昔、人のようなものたちが住んでいたと言われている。彼らは声を合わせて群生し、感情を共有する能力を持っていた。しかし、ある時、彼らはこの能力を失い、孤独と沈黙が世界を支配するようになった。古の集落では、今も石造りの家々が風にさらされている。窓からはもはや光も生活の気配も感じられない。

かつては人々が集い、話し合い、笑いあった場所から彼らは次第に消えていった。なぜ彼らが去ったのか、誰も知らない。残されたのは、古い碑文と断片的な記録だけ。それらは、彼らが持っていた技術や言語、そして彼らの日常について語っているが、その生きざまや感情についてはほとんど触れられていない。

この世界は、もはや会話が不可能な場所となった。存在が別の存在と対話する能力を持たず、すべてが内面に閉じこもる。その静寂の中で、一つの存在が静かに目を開ける。その瞳は長い時を経ても色褪せることはない。彼は何を思うのか? 彼の心の中で起こる変化や進化は、外の世界には一切影響を与えない。彼と彼の同類たちは、互いに通じ合えない独立した存在として、この世界で息をひそめている。

彼は自分の存在意義を探求し続けるが、外部からの刺激や他者の存在がないため、自己認識も曖昧で不確かなものとなる。彼の世界では、昔の人々の残した碑文が微かな手がかりとなり、彼はそれに縋ることで、何かを感じ取ろうとする。

碑文には「対話の断絶が私たちを滅ぼす」と記されている。彼はこれを何度も読み返すが、対話の意味すら分からない。彼にとってそれはただのシンボルであり、解読不能な秘密の一部に過ぎない。彼の孤独は深まる一方で、碑文に描かれた文字たちが彼に語りかけることはない。

日が沈み、群青の光がさらに濃くなる中、彼は碑文の前に立ち尽くす。彼の心の中で、何かが揺れ動く。それは寂しさか、それとも新しい何かへの予感か。彼は手を伸ばし、冷たい石に触れる。その触感が、彼の中の何かを呼び覚ます。

夜が深まり、星が一つ、また一つと現れ始める。彼は立ち尽くしたまま、静かに目を閉じる。そして、冷たい風が彼を包み込む。彼には誰も見えない、誰も聞こえない。しかし、彼は知っている。彼の存在は、かつてこの地に住んでいた誰かと不思議なつながりを持っていることを。

数千年の時を越えて、彼と彼らの心は、無言のうちに通い合っている。

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です