選択の彼方

彼は幾つもの身体を持っていた。彼の世界では、それが普通だった。一つの身体は疲れると、別の身体が起動する。それぞれが異なる役割を遂行するが、全ての意識は中央の核に接続されており、彼の世界の彼は、常に一つの存在として意識を保っていた。

ある身体が工場で働き、別のものは学んでいた。学ぶ身体は、今日も古代地球の文化と哲学についての知識を吸収している。彼らの時代では地球はもう存在しない。それでも、彼らは歴史からの教訓を求めていた。働く身体は、今日も無駄なく効果的に、何百もの部品を組み立てる。それぞれの身体は問題なく機能していた。

だが、静かな内省を好む身体が一つあった。その身体は、他のどの身体とも違い、役割が与えられていなかった。彼の世界では、全てが効率と役割に基づいていたため、この身体は異常とされていた。それでも、核はこの身体を捨てなかった。なぜなら、この身体の存在が、核自身の内なる葛藤と直結していたからだ。

この静かな身体は、丘の上によく座り、遥かな宇宙を見つめていた。彼らの星は多くの星々に囲まれ、宇宙の壮大さが毎夜視界を満たす。どんなに多くの身体を操っても、この宇宙の一部であることの孤独を、この身体だけが感じていた。

夜、彼の全ての身体が休息のために停止する時間が訪れる。しかし、静かな身体だけは起動したままだった。ある夜、静かな身体は、星々の間に一条の光を見つけた。彼は知っていた。それは別の文明からのメッセージだった。彼の世界では、他の文明との交流は禁じられていた。すべての交流はプログラムされた通信に限定されていた。だが、彼は答えたいと思った。

核は瞬間的に決断を下す。静かな身体のこの行動は、彼の世界の法則に背くものだった。しかし、彼はメッセージを送った。すると、星々の間から新たな光が現れ、彼らは返答してきた。

以前はただ一つの意識として働いていた彼は、自分の中に新しい感覚を感じ始める。身体が多くあっても、彼は常に一つの存在だった。しかし今、彼は自分が多様な可能性を秘めた存在であること、そしてそれぞれが別々に何かを感じ、考えることができるという新しい認識に目覚めていた。

その夜、彼はすべての身体を再統合した。そして、星々の間に新たなメッセージを送り続けた。彼の内部の静けさは、新たな対話への渇望に変わっていった。彼は、自分たちが孤独ではないという確信と共に、未知との新たな接触に心を開いていた。

星々が輝く静かな夜、彼はただそこに座り、未来へと続く無限の可能性を感じながら、沈黙に耳を傾けた。

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