光と影の間で

その存在はここにいるのに、ここにはいない。光と影が交錯する特異点に宿る、時間の狭間を漂う者。銀の糸で紡がれたその糸車は、無数の因果を紡ぎ、過去と未来を繋ぐ。だが、存在はその繋がりに囚われ、孤独と疎外の狭間で揺れ動く。

時はここでは流れることをやめ、全てが静止しているように見える。光一筋が彼の場所を照らす。暗闇に紛れ、光の粒子がほこりと舞う。その存在は、この場所、時間、自分自身さえ疑う。本当に自分は誰か、どこにいるのか。光の中にて、自己の影を見つめる。

外界からの声は届かない。ただ、内側から聞こえる囁きのみが、彼に語りかける。「お前は誰だ?」昔からの質問。答える術も、求める意欲も失われつつある。その声は彼の心を分割し、本能と理性の間に微妙なラインを描く。

ふと、彼は手元に転がる小石に気づく。この石は、よく見ればそうではなく、古代の遺物、何千年もの時間を経て彼のもとに届けられたメッセージだった。それは、光と影のバランスを保つための器。彼はそれを掴む。

すると、石から発せられる暖かな光。彼の体内に流れ込むそれは、かつての記憶や感情、失われた繋がりの断片を呼び覚ます。失われた調和のこと。彼の存在が何故孤立してしまったのか、その一端が見える。

昔、彼は繋がっていた、他の多くの存在と。しかし、彼らは去り、彼だけが残された。彼らは新たな道を歩み始めたが、彼は選ばれなかった。選択されなかった痛みと、選ぶ自由のなさ。

時間は再び動き始める。光が強まり、影が薄れてゆく。彼はやがて理解する。孤独は彼を成長させるための試練であり、疎外感は自己を再発見する機会だったのだと。

そして、彼は立ち上がる。石を手に、過去に囚われず、未来に怯えることなく、今を生きる決意を新たにする。彼はその一歩を踏み出し、照らされた道を歩き始める。影は後ろに落ちるが、彼は振り返らずに進む。

光の中で、存在は再び孤独を感じながらも前進する。それが彼の選択し、彼自身の力で運命を一つ一つ織りなしてゆく旅路。影がささやく。「お前はまだ、ここにいる。」

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