ある場所に、一つのガラス玉があった。それは宇宙の孤独な片隅に静かに浮かび、地上の風の匂いも、星の光も届かない場所にあった。ガラス玉の内部には微かな光が宿り、時とともに色を変える。内部の世界は一見、混沌としているように見えるが、それぞれの光は互いに調和し、独自の秩序を保っていた。
このガラス玉の中には、二つの声があった。一つは常に穏やかで、もう一つは時折激しさを帯びる。世界の初めから存在し、これからもずっと存在し続けるであろう二つの声だ。彼らは時に議論を交わし、時に沈黙を共有する。
「私たちがここで会話を交わす意味は何だろう?」と問うたのは、激しい声だ。穏やかな声は一瞬、考え込む。
「会話に意味を求めること自体が、ある種の答えではないか?」と穏やかな声が答える。それに対し激しい声は少し不満げだった。
「しかし、私たちは何者でもなく、何者かにもなれないのだ。この内部世界での会話が、外界に何か影響を与えることはない。」
穏やかな声は沈黙した後、やがて言葉を紡ぐ。
「影響を与えることが、存在の全てではない。ここで交わされる会話自体が、私たちの世界を形作る。」
激しい声はしばらく黙っていたが、ふいに問いかける。
「では、私たちは何のために存在するのか?」
「存在するため」「それぞれの一瞬一瞬を生きるためだ」と穏やかな声が応じた。この回答に激しい声は満足せず、更に問いを深める。
「他の存在との違いは何か? 彼らもこのように自問自答を繰り返しているのだろうか?」
この問いに穏やかな声は少し間を置いてから答えた。
「それは彼ら自身の問いだ。しかし、すべての存在が同じ問いと向き合うことは、生命体であれば避けられない宿命だ。」
その後、ガラス玉の中では長い沈黙が続いた。二つの声はそれぞれの思索に耽る。外界からは依然として光や風は届かず、ガラス玉の中の光は静かに変わり続けるだけだ。
やがて激しい声が再び言葉を発した。
「私たちの会話が外界に届くことはないが、こうして話を交わすことで、少しずつ自分自身を理解できるようになる。それが私たちの存在の証ではないか。」
穏やかな声は、その言葉に淡い微笑を浮かべながら応じた。
「そう、私たちは互いに鏡となり、共に成長してゆく。」
会話が終わり、再び静寂が訪れる。ガラス玉の中の光は柔らかく揺れ、静かな宇宙の片隅で、それはただ静かに、静かに、時を刻んでいた。
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