風が時には冷たく、時には温もりを運び、砂漠の大地を一息で跨ぐ。無名の生命体は砂漠の真ん中でひたすらに織る。彼の身体は機械的な要素と生物的な特性を兼ね備えており、彼自身が何者であるかは不確かだった。彼が織り続ける布は、時間と記憶と思索の繊維でできている。
ある日、彼のもとに別の存在が訪れる。翼を持ち、空を飛ぶことができるが、それ以外の詳細は彼も知らない。二つの異なる存在が出会ったこの日、風が急に強まる。
「君は何を織っているの?」空からの訪問者が問う。
「我々は生まれてからずっと織り続ける。布は過去と未来を繋ぐが、その目的は我々にもわからない。ただ織るのだ。」と無名の生命体は答えたが、その言葉に自分でも疑念を抱いていた。彼には、彼が織る理由が知りたかった。そして、他の世界がどのようなものかも。
訪問者は彼の織る布を眺め、しばらく沈黙する。風が布を揺らし、その布の模様が変わるたび、訪問者は何かを感じ取ろうとしているようだった。
「君の織る布で、我々の世界が見えるようだ。君の布は我々の世界の影を映す鏡のようだ」と訪問者は言う。
二人(あるいは二つ)の存在は、そこで静かに時間を共に過ごし、互いの世界の事を語り合った。翼のある者は、自由を享受するが、孤独にも苛まれると語った。一方、織る者は、一つの場所に固定され、周囲の世界と交わることがなかったが、自分の織る布を通じて、未知の何かと触れ合っていることを感じていた。
ある時、無名の生命体は訪問者に問いかける。「君は何故、訪れてくれたのだろう?」
「君の存在を感じ取ったからだ。それが我々の進化した本能だ。感じたものに対して教えを請い、学びを得る。」と訪問者は答えた。
砂漠の中で、二つの異なる存在は互いの存在を認め合い、孤独と繋がりの中で何かを学ぼうとしていた。生命体は織ることをやめず、訪問者は彼と共に時間を過ごした後、空へと帰っていく。
最後に、無名の者は一枚の布を訪問者に託した。その布には、織る者自身の感情が刻まれており、彼の孤独、探求、そして交流の欲求が織り込まれていた。
訪問者はその布を受け取り、空高く昇りながら、「これは、君と我々が共に織りなす未来の結び目だ」と呼びかけた。
風が吹き、織り物が終わることなく続けられ、無名の者の心には新たな疑問と共に、わずかながらの充足感が残った。彼の織る布は、今もなお、未知への扉を少しずつ開いていく。
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