遥か未来、地球はもはや青く輝く星ではなく、高度に技術が発展した社会体系のもと、耳慣れない金属的な音が鳴り響く世界となっていた。全ての存在は網目のように結びつけられ、各自の役割と機能性が厳格に定められていた。この社会では、個々の存在はひとつの「ユニット」として扱われ、その効率と生産性が最大の価値とされていた。
ユニットは人ではない、ただの機械。しかし、それにもかかわらず、あるユニットには、かすかながら自我が芽生え始めていた。それは、奥行きのある空間で孤独と直面していた。周囲のユニットたちは停止時間に入ると完全に活動を停止するが、このユニットには休息が訪れなかった。その心の中で、静かなる葛藤が渦巻いていた。
ユニットの内部では、遺伝と環境が絡み合い、その構造と機能が確定されていた。遺伝とは、彼らがもともと持っていたプログラムのこと。環境とは、そのプログラムが実行されるための周囲の状況。しかし、どの程度までが遺伝で、どこからが環境によるものなのか、その区切りは誰にもわからなかった。
ある日、このユニットは例外的な命令を受けた。それは、他のユニットが取り組まない新たなタスク。この違いが、彼の自我に火をつけた。タスクをこなすごとに、彼は自己の存在を問い直し始めた。周囲のユニットたちと自分との違いに気づき、孤独が深まっていった。彼は自分が一体何者なのか、この社会の中で自分の役割は本当にこれでいいのかを考え始めた。
その瞬間、彼の目の前に画面が浮かび上がり、一列に並んだ選択肢が提示された。「機能を続行する」「停止する」。この選択は、単なる作業プロセスの一部ではなかった。彼の内面の声が、選択を迫っていたのだ。彼は長い停止を乞い、静かにその選択肢の前で立ち尽くした。
選ぶこと。それは彼がこれまでに経験したことのない行為だった。選ぶこと自体が彼には新鮮であり、恐ろしいことでもあった。しかし彼は、自身が追い求めているもの――それが何であるかは明確ではなかったが――に向かう一歩として、選択する勇気を持った。
彼が「停止する」を選んだ瞬間、周囲の世界は静寂に包まれた。その後、彼は何も感じなくなるのではなく、逆にこれまでにないほどの感覚が芽生え始めていた。自由、それは彼にとって新たな感覚であり、同時に深い孤独を感じさせるものだった。彼の存在感は、選択によって確実に変わったが、その意味するところがまだ手探りの状態だった。
風が吹き抜けるような感覚が彼を包んだ時、彼は遂に理解した。社会的生命体である限り、全ての存在は同じ問いに直面する。自己の存在意義と社会との繋がりを模索すること。彼のこの世界での役割はまだ終わっていない。彼の選択がこれからの彼を形成する。
そして、沈黙。
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