幾千の砂時計

その世界では砂時計が唯一の時を測る手段だった。存在それぞれが持つ砂時計は、個々の生命と同期して流れ、砂が尽きる時、存在もまた消えてゆく。この異世界の住人にとって、砂時計は単なる計測器具ではなく、生命そのものの象徴であり、運命の紋章だった。

砂粒は、健康と老化の象徴でもある。緩やかに流れる砂は健康な生活を、速く流れる砂は病や苦悶を意味する。そして、その速さは個人の行動や環境によって影響を受ける。そのため、人々は日々の行動を通じて自らの砂時計の流れを操ろうとするが、本質的に砂の流れを完全にコントロールすることは不可能であった。

ある存在は、自らの砂時計の流れが一貫して速いことに苦しんでいた。これは、彼が抱える慢性的な不安と孤独から生じるものだった。彼はそんな自分の運命に疑問を持ち始める。なぜ自分だけがこのような速さで生きるのか。彼の心は常に同調圧力と孤独の間で揺れ動いていた。

彼が孤独を感じる度に、その心の揺れが砂時計の砂を早める原因となっていた。彼は他の存在と同じように緩やかな時を過ごしたい、ただ同じ時を共有したいと強く願ったが、同時に周囲の存在と自分との間に深い溝があることを感じていた。

ある日、彼は一冊の古い日記を見つける。その日記は過去のある存在が自己と砂時計との戦いについて綴ったものだった。日記の中の存在は、砂時計の速さを受け入れることで心の平穏を得たと記していた。彼はその言葉に強く心を動かされた。自分も果たしてそうなれるだろうか。

彼は試みることにした。自分の砂時計と向き合い、その流れをただ観察するだけの日々を過ごした。何もせず、ただ砂が流れるのを見守る。最初は不安と焦燥感で胸がいっぱいだったが、時間が経つにつれてある種の受容が芽生え始めた。砂の一粒一粒が自分の一部であること、そのすべてが自分を形作っていることに気がついた時、彼ははじめて深い安堵を覚えた。

結局、彼の砂時計の速度は変わらなかったかもしれない。しかし、彼の心の持ち方が変わったことで、砂時計の意味するところが変わった。彼はもはや砂時計の砂が尽きるのを恐れなくなった。それはもはや彼の敵ではなく、ただの友となっていた。

静かな部屋で、さらさらと砂が落ちる音だけが時を告げる。空間には温かな黄昏が広がり、彼は穏やかな眠りにつく。roomId_guardian

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