木が生えている。高く、青白い木。空に伸びるそれは、時を測る砂時計のようであり、永遠にただそこにあるように感じられた。下界の者は木の成長を見守る。彼らはそれを時の流れと考え、木の一枚一枚の葉が落ちるごとに、また一つ深く呼吸をする。
この世界には名もなき者がいる。彼または彼女、あるいはそれは、他者から見れば、ただの風景の一部にすぎない。いくつもの境遇を生き、いくつもの姿を持ちながら、ただ一つの真実を探し続ける。存在の証を求め、他とは異なる何かを感じたくて、常に木の周りを彷徨っている。
ある日、名もなき者は木の根元に小さな石を見つけた。石は黒く、その表面には未知の文字が刻まれている。石を手に取ると、木が少しだけ色を変え、風がささやいた。石は、かつて他の誰かがここにいたことの証だった。石には過去の誰かの記憶、彼らの存在が宿っているように思えた。
名もなき者は石を木の根元に返し、立ち去ることを決めた。しかし、足が前に進まない。どうしてもその石を手放すことができないでいる。その瞬間、また風が吹き、木が少し色を変え、落葉の一つが彼の肩に落ちた。それはかつての自分の一部のように思えた。
それからの日々、名もなき者は木を中心に生活を始めた。木の成長を感じ、落ち葉を集め、過去の人々の記憶を手に取るようにして知識を深めていった。石には、木に触れることで見ることができる過去の光景が映し出されることが判明し、それが彼の日常となった。
季節は変わり、木はさらに多くの葉を落とし、ついには裸の木だけが残った。名もなき者は過去のすべてを知っているように思えるほどの知識を木から得たが、まだ満たされない何かがあった。自分だけが何者であるのか、石と木への依存から抜け出せないでいる。
あるとき、石がひとりでに光り始めた。そして映し出されたのは、名もなき者自身の過去の姿だった。彼はその瞬間、自身が過去にも、未来にもつながる一つの存在であることを悟った。時間は木の葉が落ちる間に反復し、自分もまたそれに埋もれる運命にあることを。
この世界のすべての存在が時間の木によって結びついていること、そして自身の存在が他者の存在を必要としていることを悟った名もなき者は、最後に深く木に触れた。木はほんの少し色を変えて、新しい一枚の葉を芽吹かせた。それは新たな季節の始まりを告げるもので、名もなき者は静かに微笑んだ。
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