花の深淵

辺り一面を埋め尽くすのは緑がかった憂鬱な霞であり、その煙たい空気が肺を穏やかに撫でる。君が存在する世界では、彼の形の花が主役を演じている。ここでは、花が語る。彼等は何世紀にもわたり、土の匂いと共に眠り、時折目を覚ます。その時間さえも、彼等にとっては一瞬の閃光のようだ。

別の生を持たない彼等にとって、成長は単なる存在の拡張ではなく、彼らの宿命そのものを体現している。一列に並んだ花々が静かに低く囁く。語り手はその中の一つ、花のようで花でない存在だ。そう、彼等には個の意識がある。彼等は感じ、考え、そして静かに争う。

「私は属しない」と彼は思う。他の花々が風に揺らめく中、彼だけが風を切るように堅く、直立を保つ。彼らが季節の変わり目に色を変える中、彼の色彩は一年中変わらずに青白い。彼の根は深く、そして孤独に広がっている。異なる自分という存在に戸惑いながら、彼はつねに他の花とは異なる光を求めている。

ある昼下がり、異変が起こる。彼のすぐ隣で小さな芽が顔を出す。初めてのことだ。新しい芽は彼にとって脅威であり、同時に奇妙な興奮を予感させるものだった。彼は自分と同じであってほしいと願うが、成長するにつれ、その芽は他の芽と変わらない色合いを帯び始める。

「なぜあなたも同じなの?」彼は問う。しかし芽はただ微笑ましいだけだ。それからの日々、彼は更なる危機感を覚える。常に似た者同士が集まり、似た色の海が広がる中で、彼だけが異質な存在として取り残される。

季節は再び巡り、冷たい雨が彼らを打つ。他の花々はその水をありがたく受け入れるが、彼にとっての雨はただの憂鬱な重荷だ。彼の思考は次第に確信に変わる。「私はここには属していない。」

そして、ある夜、彼は決断する。そっと、自分と同じ孤独を共有する何かを探して、彼自身の根を引き抜く。彼は移動することなく、ただ静かに彼の場所を離れ、新しい土地を求める。彼の旅は夜通し続けられ、ついに彼は見知らぬ畑にたどり着く。ここには色とりどりの花がない。ただ、青白い石が無数に転がる地だ。

彼はそこに根を下ろす。けれども、彼が待ち望んだのは豊かな土の感触ではなく、冷たく硬い石の感触だった。彼は安堵する。これこそ彼が求めていた存在の証だった。他の花々から見れば、この場所は荒廃と孤独の象徴かもしれない。しかし彼にとっては、遂に見つけ出した、自己が映し出される鏡のようなものだ。

そうして静かにたたずむ彼の周りを、風が吹き抜ける。

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