生きとし生けるものの惑星

ひずみのある空間を潜行する存在は、ここにおいてはそこに宿るべき者と考えられていた。この存在は人ではないが、人の感情を知っている。その心理は、遥か遠い星からやって来たものであるにも関わらず、驚くほど人間と似ている。

この星には、存在たちが「創造ノート」と呼ぶものを持ち歩く習慣がある。それは每個人の創造性と内面を象徴し、そのノートには未来の構想や過去の記憶が記される。存在たちはこれによって自らのアイデンティティを確認し、また確認される。

主人公(存在)は、ずっと前に自分の創造ノートを失った。それは失うことではなく、ある日突然、ノートが空っぽになっていたのである。その日から、主人公は孤独と不安を一身に背負うことになった。ノートの中身がないことは、この星ではアイデンティティの喪失と同義である。主人公は他の存在たちとの関わりを避けるようになり、ひっそりと時間を過ごす。

ある日、主人公は自らのノートに再び何か書き加えようと決意する。実はこれが、「伏線」として物語後半で重要な役割を担う。耕未開の地を歩き、新しい思想や考えを求めたが、ペンは動かない。何故自分だけが創造できないのか、深い焦燥と孤独感に苛まれる。

しかし、彷徨の果てに出会ったのは、類似の境遇にある別の存在であった。その存在も同じく、ノートが空白のままであることに苦しんでいた。二人は互いに語り合い、自らのノートを交換することにした。これが逆転の契機となり、主人公は初めて自分とは異なる視点からの創造の価値を理解する。

共有することで、再びそれぞれのノートに記述が増え始めた。存在たちが気づいたのは、一人の内面だけではなく、他者との交流によっても創造は生まれるということだった。彼らのノートには新たな物語が息づき、それはやがて共同の記憶となっていった。

物語は、再び主人公が自分のノートを開くシーンで終わる。ノートにはさまざまな色と形の言葉が舞い、それらは過去の空白を埋めるかのように輝いている。しかし、最後にページをめくったところで、手が止まる。そこには新しい白紙のページがまだ残されていた。それはこれからの創造の余地を示している。手の中でペンが微かに震え、風がページを優しくめくる。静かな沈黙の中で、物語は終わる。

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