時は流れ、星は移動し、宇宙の隅にある惑星では、唯一の生命体が光を纏って波様に舞う。ここには空気も水も存在しないが、光の粒子が融合し生命を形作る。彼らは光を食し、光で語り、光とともに思考する。彼らには声も形もないが、感情と意識は人間に劣らず豊かであった。
ある光の幼子がいた。この幼子はひときわ強く輝く光を放ちながらも、自らの存在に疑問を抱いていた。光の族の中でも彼は特別で、他の者よりも深く、遠くを見る力を持っていた。彼の視界には、星々の誕生と死、宇宙の果てることなき広がりが映し出された。
常に周囲と同調することを求められる族の掟に疑念を抱いた幼子は、なぜ自分たちは光だけで満足しているのか、と問うた。しかし、彼の問いに答える者はいなかった。彼らはただ光を共有し、一つに溶け合うことで完全を追求する存在だったからである。
ある時、幼子は遠く暗い宇宙に孤独な小さな星を見つけた。この星には光など存在せず、だからこそ幼子は惹かれた。自らの全てをこの星に投影しようと、星に近づいていった。その瞬間、周囲の光の族から警告が発された。未知との接触は禁じられていた。しかし幼子は止まらなかった。
星に降り立った幼子は初めて「触れる」という感覚を経験した。星の冷たい土の感触、鋭い岩の痛み。光の中では味わうことのできない豊かな感覚が幼子を圧倒した。同時に孤独という感情も初めて体験した。光の中では感じることのなかった切なさ、寂しさが幼子を包み込んだ。
星での時間は未知の体験で満ちていたが、幼子はやがて自らの光が弱まりつつあることに気づいた。星の暗さが光の力を奪い、命そのものが脅かされ始めたのだ。最後に幼子は決断した。彼は星々を再び見上げ、自らの族との再結合を選ぶ。しかし、彼は変わり果てていた。星の感覚を身に纏い、再び族の中に戻っても、彼はもはや以前の幼子ではなかった。
再び輝きを取り戻した幼子は、持ち帰った知識と経験を族に語った。初めての異論、初めての自我。彼の言葉が少しずつ族の心に影を落とし始める。変化は恐れられ、理解され難いものとされるが、彼の話は族に新たな可能性を示唆していた。静かに、しかし確実に思索の種を蒔いた。
最後に、幼子は自らの光が再び弱まるのを感じながら、星に思いを馳せた。彼の光は少しずつ薄れ、やがて宇宙の一部となる。残された光の族は、幼子が見た世界、感じた孤独、触れた寒さについて、黙考を重ねる。
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