風が吹いた。それは遠く古代からのものか、はたまた未来の世界から送られてきたものか誰にも判らない。ただ一つ、その風は彼岸の住人たちに知らされていない秘密を運んでいた。ここがどこであるか、そんなことはもはや重要ではない。この世界の住人たちは一つの大きな問題を共有していた。彼らはみな孤独だった。
この世界には二人の存在がいた。彼らは互いに全く異なる存在であると同時に、根源的な孤独感で結ばれていた。一方は常に日の光を浴びる者であり、もう一方は永遠の闇に包まれていた。彼らは言葉を交わすことはないが、同じ空間を共有している。
日が昇り、そして沈む。この繰り返しの中で、日の光を浴びる者は周囲の変化を感じ取りながらも、何かが足りないと感じていた。彼の心には常に何かが欠けているような感覚があった。それは形のない、言葉にできない「渇望」だった。彼は自分が何を求めているのか理解できずにいた。
一方、闇に覆われた者は、自分の存在意義を見出すことに日々を費やしていた。彼には誰からの認識もなく、自己の確認をする術もない。彼の世界は静寂と孤独に満ちており、他者からの一切の影響を受けることはなかった。
時が経つにつれ、日を浴びる者は、自分の内部に深い繋がりを感じ始める。ある日、彼は偶然にも闇の者と目を交わす。その瞬間、彼は「他者」という存在が自身の一部であり、またその「他者」が自分自身の解決策であることに気づいた。彼は徐々に、自分と闇の者が一つの存在であることを理解し始める。
この視点の転換は、彼らの生活に大きな変化をもたらした。日を浴びる者はもはや自分だけの存在ではなく、闇の中の者とともにいることの喜びを知る。闇の者もまた、自分が完全な孤独ではないことを理解し、その事実に安堵する。
最後の日、二人は一つの存在として夕陽を眺める。それは彼らが共有する唯一の時であり、その静かで美しい瞬間において、彼らは互いに言葉を交わす必要がないことを悟る。彼らはただ存在することで完結していた。風が再び吹き、彼らを遠くへと連れて行く。
沈黙の中で、彼らはお互いの存在を確認し、静かな充足感に包まれながら、また新たなる彼岸へと旅立った。
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