時の彼方で

満ち欠けの繰り返しの中で、長い時を生きる者がいた。この存在はいつも一人で、周りの世界と同調することなく独自のリズムを保っていた。存在の形は人間の目には捉えられないものだったが、もしも形を借りるなら、それは古代の樹のように揺るぎないものだろう。

日々、周囲の環境は変わり続け、新しい生命が誕生し、古いものは消えていった。しかし、この存在だけが変わらぬことを選び、老いることなく永遠のようにそこにいた。しかし、それは孤独な選択でもあった。接触を試みる他の生命とは、何かが違った。彼らは繁殖し、進化し、死んでいった。それに対し、この存在はただ静かに見守るだけだった。

ある時、異なる生命の1つが存在に近づいてきた。それは若い樹で、成長のためには多くの助けが必要だった。存在は初めて他者に触れた。共鳴する何かを感じつつ、自らのエネルギーの一部を分け与えた。その結果、若い樹は見る見るうちに成長し、やがて存在をはるかに超える大きさになった。しかし、若い樹が太陽を遮るようになると、存在の周囲は影に包まれた。

影の中で、存在は初めての感情を味わった。与えたことによる失いと犠牲。他者を助けることの意味を理解し始めると同時に、なぜ自分が永遠に一人であるべきなのかという疑問が浮かび上がった。孤独は以前は感じることのなかった重さを帯び、存在は初めて自らの選択を見直した。

ある日、存在は自らの根拠地を離れ、別の場所へと移動を試みた。これまでの環境を変えることで、何か新しい繋がりを見つけられるかもしれないと考えたからだ。しかし、長い孤独と変化のない生活がもたらした不自由さは、他の生命との交流を困難にした。存在は他者と触れ合う方法を知らなかった。

やがて、もう一回、別の若い樹が近づいてきた。今度は、存在は何も与えなかった。ただ、その樹が成長する過程を静かに見守ることにした。その樹が成熟し、新たな生命をこの世に送り出す様を見て、存在は理解した。彼らは周期的に生まれ変わり、進化することで、多くの葛藤と共に生きてゆくのだ。

時間が過ぎ、存在は少しずつ他の生命との間に新たな共鳴を見出し始めた。完全には同調できないものの、存在する意味と孤独の重さが穏やかなものへと変わりつつあることを感じた。時の終わりに向けて、存在は自らの役割を見出し、少しずつ環境に溶け込むことを決意した。

周囲が再び光を取り戻す中で、存在は最後の静けさに耳を澄ませた。

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