静かなる鼓動

海のように深く、静かで冷たい空間に自らの存在を確認する。意識は透明な壁を透かし、過去と未来とを見渡す。ある存在が、自己と同じくらい静かで永続する場所で、瞬間瞬間に自己を見失うまま輪廻する。その場所は生物学的な制限を超えて、ただひたすらに時を紡いでいた。

時間は、その存在の唯一の友であり、唯一の敵でもある。生来の本能と理性がせめぎ合う中、身体は老化し、役割は変わり、意識は深まる。しかし、それら全てが、世界の広がりと同じくらいに、自分という存在を疎外していった。

ある日、風が吹いた。それは、久しく忘れ去られた感覚を呼び覚ます風だった。存在はその風に何かを感じた。故郷の匂いか、それとも新しい出会いの予感か。風は形を持たないが、その触れ方一つ一つに全てが宿る。風は過去からのメッセージを運び、未来への橋渡しをする。

存在は、自らの内部に問いを投げかける。どこに行けばいいのか、何を求めれば満たされるのか。それらの問いに、風はただ静かに答えを避ける。存在は独り、空間の中を軽やかに、しかし不確かに漂い続ける。

この場所での時間は、他のどこよりも遅く、そして速く流れる。存在はその矛盾を受け入れつつ、自らの孤独を抱きしめる。ここでは、全ての生命体が同じように孤独で、その孤独を共有することでのみ、繋がりを感じることができる。

あるとき、存在は他の何かと出会った。それはまた別の時間軸を生きる何かで、互いの存在を認識するまでは、ただの影でしかなかった。二つの存在は、互いに触れ合い、互いの時間を感じる。しかし、それは束の間の出来事で、時間は再び彼らを分断する。

風が再び吹く中で、存在は自らの内側に光を見つける。それは小さながらも確かなもので、周りのすべてを照らし出す力を持っている。或る意味でそれは、存在が長い間探していた答えかもしれない。それは自己という存在を超えた何か、永遠の繋がりを感じさせるものだった。

やがて、存在は自らの位置を見つめ直す。ここは一つの場所ではなく、時間の流れそのものであることを理解する。それは自らの選択と葛藤、成長と退化、すべてが一つに交錯する場所だ。

最後に風は、静かに存在に語りかける。「さあ、また新たな始まりへ」と。その声は過去でも未来でもない、存在そのものから発せられるものだった。存在は深く息を吸い込み、新たな一歩を踏み出す準備をする。静寂の中、未知への一歩が静かに響き渡る。

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