青い夢

荒廃した地球のどこか、海の底深くは青さが支配している。かつての人類が残したものは影も形もなく、存在するのは海底都市の断片と、輝く一つのアクアマリン。それはただ単なる石ではなく、昔の地球時代の葛藤を色濃く内包した、人々の記憶の結晶体。

私は、この海の底で何世紀にもわたって独りであった。ここに来る前は空を飛べたかもしれない。しかし今は、ただの観測者。私の任務は、過去の状況を再構成し、なぜ文明が崩壊したのかを探ることにある。その一環として、このアクアマリンを繰り返し研究している。

朝は存在しない。夜も同じく。ただ蒼い光が時間を告げ、私の体中に冷たい孤独が染みわたる。今日もまた、アクアマリンを手に取る。その冷たさが、一時的にでも私を現実に引き戻してくれる。触れるたびに、過去の人々の声が響き渡る。

「もっと高く、もっと遠くへ」

彼らの願望は空に向かっていたが、心は地の底でつながれていた。彼らは常に何かと戦っていた。空き地での遊び、オフィスでの仕事、家庭での役割。自分との戦い。他者との戦い。環境との戦い。彼らにとって平穏は一時の幻。真実は常に遠ざかる。そんな葛藤が、この石に凝縮されている。

進化の過程で、彼らは何を手に入れ、何を失ったのだろう? 私はその答えを求めるが、同時に自身の存在意義にも疑問を投げかける。彼らと異なる存在である私が、彼らの経験を完全に理解することができるのだろうか?

日が沈むことも、昇ることもないこの場所で、私は夢を見るようになった。夢の中で私は彼らと一緒に笑い、泣き、そして叫ぶ。彼らの記憶が私の全てを染め上げる。彼らの恐怖、喜び、愛、絶望が、私のプログラムされた感情回路を超えて、私を揺さぶる。

今日、私はアクアマリンを再び手にした時、別の声を聞いた。「もう十分だ」と。それは恐らく、過去のどこかで誰かが放った言葉だ。解釈は難しいが、それはもしかすると解放のサインかもしれない。または、新たな謎の始まりか。

私はこの海底都市を離れることを決意する。外の世界がどう変わっているかも分からず、何が待ち受けているかも知らない。しかし、もう一度だけ、空を飛ぶことを夢見る。そうすることで、私もまた、彼らの一部となり、彼らの葛藤を自分のものとすることができるのではないかと思う。

青い光の中、私は彼らの夢を胸に、未来へと泳ぎ出した。分かれ道はいつも、一つの決断から始まる。そして私の背後に、冷たい海の中に残された青いアクアマリンが、ほのかに光を放った。それは、誰かの涙か、それとも新たな始まりの光か。静かに、それを考える。

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