海のガラス

灰色の波が砂浜に打ち寄せると、小さなガラス片が現れた。それはかつて透明で、今は海の悲しみを吸い込んでほんのり青く染まっている。波は再び引くと、ガラス片は見えなくなる。ただ、ひとりの青い影が海辺を歩いている。この影は人でもなければ何でもない、ただの存在。しかし、これがここの全てだ。

日々、青い影は砂浜を歩き、海から来るすべてのものと対話する。家族の声、友人の笑い声、そして自分自身の声までもが波間に消えていく。青い影は学んでいるのだ。学ぶこと、それ自体が孤独であることを。

青い影にとって、この砂浜は全宇宙だ。ここには、海が持つ全ての記憶が詰まっており、それぞれのガラス片が過去の断片を映し出している。海は言う、「私はお前と同じだ。永遠に同じ問いに直面し続ける。」

ある日、青い影は特別なガラス片を見つける。これは他とは違い、太陽の光を一点に収束させる力を持っていた。それを手に取ると、青い影は過去に生きていた人々の生活、愛、喜び、悲しみが凝縮された時間を見ることができた。それは人間が抱える孤独、同調圧力、アイデンティティの喪失といった葛藤が、言葉にならないほどの美しさとともに現れるのだ。

この発見によって青い影は変化を遂げた。そう、孤独は理解されないまま放置されると、ただの苦痛となる。しかし、共感し、共有されることで、それは美と変わり、新たな形を成すことが可能になるのだ。

このガラス片を通して、青い影は自分自身と向き合い、そして、他の存在たちとも向き合う。自分だけが抱える苦悩でなく、全ての存在が抱える普遍的な苦悩なのだと理解するに至る。

やがて、影はガラス片を海に返すことに決める。それは海が元々持っていたものであり、自然の流れに任せるべきだと感じたからだ。その瞬間、影は海と一体となり、その存在はもはや孤独を感じることはない。

海辺には、また新しいガラス片が打ち上げられる。青い影の物語は、打ち上げられたどのガラス片にも残っており、誰かに拾われるのを待っている。効力は時間とともに変わるかもしれないが、そのエッセンスは変わらない。

場面はゆっくりと朧げになり、最後の波が引くと、ただの静けさが残る。波のリズムは感じられなくなり、すべてが沈黙に包まれる。空はまだ灰色で、海は静かだ。

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