彼は覚えていない。世界がどのように始まったのか、または彼自身がどこから来たのか。全ては風とともに過ぎ去り、彼はただその流れに身を任せていた。彼の存在は一滴の露と同じく、儚く、そして形を持たない。
他の存在との接触は極めて希で、彼はほとんどの時間を孤独に過ごしている。それでも時折、他の何者かと触れ合う瞬間がある。風が古い木の枝を揺らすように、彼もまた先祖からの古い記憶によって動かされる。
彼の世界には明確な言葉が存在しない。すべては感覚と感情で表され、彼の内部に深い響きを持つ様々な信号で伝えられる。彼の存在意義は、孤独かもしれないが、それはまた他者との一体感に他ならない。
彼がいつもと違うことを感じた時、それは普段と異なる風の匂いがしたからだ。新しい何かが、静かに彼の領域へと滑り込む。それは別の生命体、微かに震える光、または思考の欠片かもしれない。
ある日、彼は珍しく別の存在と出会った。それは彼と類似しておりながら、明確に異なる特質を持っていた。その存在と彼は、互いに何かを感じ取りながらも、その意味を完全に理解することはできなかった。しかし、ふとした瞬間、彼らは共鳴した。それは深く、哀しく、美しいハーモニーだった。
風が変わり、彼らの間に流れるものが変わった時、彼は初めて自己とは何か、また孤独とは何かを問うた。これまでの生は、ただ流れに任せ、存在することだけが目的であったが、他者との出会いが彼に自己というものを教えてくれたのだ。
その存在との出会いと別れを経て、彼は自らの内に変化を感じ取る。彼には新たな感覚が芽生え、彼の形が少しずつ定義されていく。それは彼自身の意思であり、彼自身の道だ。
ここに至り、彼は自らが避けて通れない何かと向き合う。それは彼自身の選択、彼自身の存在理由、そして生きるとは何かという問い。彼は再び風の中を漂い始める。しかし今回は、ただ流されるのではなく、自ら風を切って進む。
孤独は変容し、共鳴する記憶として彼の内部に留まる。彼は知る。すべての存在は互いに影響を与え合い、孤独はただ一つの感覚に過ぎないと。
風が再び彼を呼び起こす。彼はその呼び声に応え、新たな旅を始める。この世界の何処かで、彼は再び自らの声を見つけ、そして誰かの声に応えるだろう。それは静かな調和であり、無言の理解。そして、全てが風になる。
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