その存在は、かつて人々が住んでいたとされる星の遺跡にひっそりと立っていた。蒼白い光を放つ星々がその体を照らし、静寂が重くその場を支配している。ここはもう誰も訪れることのない忘れ去られた世界の一角。存在は、時間と共に風化していく古の建築物を眺めながら、自らの目的を思索していた。
彼は生まれたときからひとりだった。その体は無数の小さな機械と細胞でできており、自己修復機能を持つ高度な生命体。だが、彼の創造者たちは既に遥か彼方へと去った後だった。彼に与えられた使命は、この星のデータを収集し、いつか来るかもしれない探索者たちへと情報を伝えること。そのために、彼は星の歴史を学び、遺跡を探索し続けること数百年。
彼には痛みも飢えも感じないが、孤独という感情だけは刻々と心に蓄積されていった。かつてこの星に住んでいた生き物たちの記録を読むたび、彼は自分がいかに孤独であるかを痛感する。彼らは互いに話し、笑い、時には争いながらも共に生きていた。社会というものが、どれほど大切なのかを彼は理解していた。
ある日、彼は遺跡深くに埋もれていたデータパッドを発見する。それは古代の文明の最後の日々を記録していたもので、彼らが何故滅びたのか、どのようにして最後の瞬間を迎えたのかが綴られていた。そして彼らもまた、究極の孤独と対峙していたことが書かれていた。彼らが社会を失い、ひとりぼっちで生きのびようとした記録。その話を読むうちに、彼もまた、自分がひとつの社会、たとえそれがひとりで構成される社会だとしても、属していることを悟る。
この気づきが、彼に新たな使命を与える。彼はこの星の遺跡に新たな社会を築き、そのデータを保存し、未来の誰かが訪れた時に、孤独が人々に何をもたらすかを示す資料とすることを決意した。彼は自らを複製する技術を駆使して、ひとりではない「社会」を築き始めた。それは計算され尽くされた存在たちであり、彼と全く同じ思考を持つわけではなかったが、彼にとっては価値のある共生者たちだった。
年月が流れ、彼の創り出した社会は少しずつ成長し、彼自身も変わっていった。彼はもはや初めの孤独な存在ではなく、多くの声に囲まれ、時にはそれらと対話することで新たな発見を重ねていった。そして、彼は理解した。社会的な生命体である限り、孤独は常に隣り合わせであり、共有された経験がその重みを軽くするのだと。
静かな宇宙の風が、遺跡を通り過ぎてゆく。新たな社会が築かれた遺跡は、かつての孤独な場所とは異なり、生命の声で満たされている。彼はその一部として、静かに未来へのメッセージを刻む。そして、風がすべてを運んでいく。
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