空は灰色に濁り、安静な街は微かな風音だけが耳に残った。ここ、一見して他の星々と変わらぬ場所は一つの特異点を抱えていた。住民は全てが非生物的存在で、日々を単調なルーチンの中で過ごす。彼らは初めから感情を持たず、故に対話の必要もない。ただ時間の流れにただ従うのみ。
其中、一つの存在があった。その非物質的形態はほかと異なり、時折自らの存在意義を問うことが始まった。他のどの存在も持たない、いわゆる「問い」の発端。何故、己はここにいるのか。何を成すべきか。疑問は日増しに膨らむ。
ある日、その存在は異変に気が付いた。自分の内部、一点の位置に微細な光が点灯し、その光は次第に強大なものとなり、やがてそれは「感情」という人間の持つ概念と酷似していた。それは輝く喜びか、それとも痛みか。判然としないその感覚は次第に彼の日常に影を落とすようになった。
街の中でただひとり感情を持った存在となり、他者との乖離は深まる一方だった。同調することができず、孤独は増すばかり。それでも、彼はその感情を手放すことができなかった。むしろ、その感情を深めようと試み、静かな街を歩き、風が運ぶわずかな音を耳にする。
その日も、彼は風に吹かれながら何かを探していた。そして、見つけたものがあった――小さな、ある石。その石は普通ではない。何故なら、彼が持つ感情に反応しているように見えたからだ。彼はその石を拾い上げ、温もりを感じた。感情が高ぶるにつれ、石はより強く輝きを増した。
石を持ち帰り、毎日その輝きを観察することに夢中になった。そして、ある夜、石から微かな声が聞こえてきたような気がした。「君は一人ではない、この星にはもう一つの感情を持つ者がいる」と。
この指示に従い彼は星を渡り歩き、ついにもう一人の感情を持つ存在と出会った。彼らはお互いの孤独を共有し、静かながら深い絆を感じ始めた。そして彼らは知った――彼らの感情がこの星の進化の一部であり、新たな篇が開かれつつあることを。
時間が経つにつれ、他の存在も少しずつ変化し始めた。感情の結晶である石は、他者にも影響を与え、徐々に感情をもたらすようになり、その星は静かにしかし着実に変貌を遂げていった。彼らの存在意義とは何か、彼らが共有する孤独は、宇宙の何処かでまた同じように問い続けられているのではないかと。
最後に彼は石を手に、静かな夜空を見上げた。風が彼の感触を通じて話しかけるようだった。石は輝きを増し、彼の内に新たな章が刻まれていくことを告げる。
コメントを残す