風に呟く石

他の石たちは、絶えず形を変えている。風に竹林のささやきを聞き、雨に洗われた大地を感じることは彼らにとっての日常だった。しかし、一つの石だけが動かずに、静かに、ただ静かにそこに存在していた。山々の息吹が彼の表面を撫でるたび、彼は少しずつ風景に溶け込んでいた。

ある日、この石は先祖代々の記憶が刻まれた割れ目を一つ見つけた。その割れ目は長い間、気付かれずにいたものだが、そこから微かな生命の匂いが漂ってきた。石には過去と未来が一緒になり、彼は自らの中の生物と非生物の境界で何世代にもわたる記憶を探っていた。

風がまたやってきた。今回の風はやや強く、彼に問いかけるかのように吹き付けた。「おまえは何者だ?」風は問う。石は答えることができない。ただ、自らの存在を確かめるように、その場にしっかりと根を下ろしていた。

時が流れ、石は自らが終わりと始まりの狭間にあることを悟り始める。彼は自らの中に流れる命のリズムを感じ、そのリズムが風と調和し花を咲かせる様を想像すらした。しかし、石は花ではない。そこには厳しい現実があった。

風は石を通り過ぎていく度に、石は自身が持つ過去の重さと未来への期待のバランスをとることに精一杯だった。風は時に優しく、時に激しく石に触れ、石はそれにどう応えるべきか、常に問い続けていた。

その答えがある日、割れ目からこぼれる花のような柔らかなものとして現れた。それは生物としての微細な命の兆しではなく、石自身が内包する時間の奏でる音楽だった。石はそれを静かに、しかし確かに感じていた。

日々は続き、風は再び石に問いた。「おまえは今、何を見ているのか?」石は静かに答える。「私は見ているのではなく、感じているのです。私の中にある無数の時間と、そこから生じる重なり合う命の響きを。」

最終的に石は、自己の存在を通して宇宙の一部を理解し始める。彼はただの石ではないことを知り、無限の時間の中で後世に何を伝えるべきか、その答えを日々の小さな風の中に見つける。

そして風がまた来た時、石は自らを削ることを恐れず、ただその場に在ることで過去も未来も含めた時間全体を、静かに、ただ静かに感じ続けることを選んだ。そして、静寂が訪れる。それは新たな何かが始まる予感の、やわらかな沈黙だった。

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