静かなる時間の彼方

時計の針は動かない。そこは刻一刻と変わることのない時空間。ここでは季節も曜日も存在しない。一つの静かな部屋があり、中央に小さなテーブルと二つの椅子が置かれている。その部屋に佇む唯一の存在は、時間を感じなくなって既に長い。彼または彼女、あるいはそれは、ただ静かに座ることしかできず、部屋の壁に飾られた絵を眺める日々。絵は風景画で、そこには古びた木と満開の桜が描かれており、せわしなく変わりゆく外の世界を忘れさせる。

ある日、部屋のもう一つの椅子が質量を持ち始めた。それはもうひとつの存在が現れたことを意味していた。新しい存在ははじめ言葉を持たず、ただ座るだけであった。時間が経過することなく、二つの存在は沈黙を共有した。そして突如、初めての会話が交わされる。最初に彼は言った。

「なぜここにいるのだろう?」

そして返答があった。ただし、その声は朽ちた木や風が桜を撫でる音のように自然でやわらかい。

「僕たちはここにいるんだ。それが全てさ。」

多くの日々が経過すると、二つの存在は次第に互いへの理解を深め、そして時折、この静止した世界に疑問を投げかけるようになった。そのたびに、彼らは自分たちがこの閉ざされた時空間に拘束された理由や目的を探求しようとしたが、答えは得られなかった。

ある時、一つの存在が問うた。

「外の世界はどうなっているんだろう? 時間が流れ、人々が生き生きと活動しているのかな?」

もう一つの存在は静かにその質問に答えた。

「時は流れるものではなく、ただ存在する。私たちはその一部で、変わらずただ存在するだけなのだ。」

やがて二つの存在は、存在そのものと時間の概念についての議論を重ねるようになった。そして、彼らが共有する肉体や感覚、記憶すらも影響を受ける境界のない対話が続いた。時空を超越したこの部屋での対話は、時の進行を忘れさせるほどに深いものだった。

しばらくして、一つの存在が問うた。

「君は幸せか?」

もう一つの存在は考え込むようにしながら答えた。

「幸せかどうかは分からない。ただ、君とここにいることに意味があると感じる。違うかい?」

最終的に、存在たちはお互いを映し出す鏡となり、自身の内面を見つめ直すことになる。そして彼らは理解する。彼らの葛藤、孤独、時間の概念は、この部屋の外の世界での人々と同じく根本的なものであることを。

風が止み、部屋に静寂が戻る。そして、最後に一つの存在が静かに呟いた。

「私たちは結局、同じ問いにぶつかるんだね。」

部屋は再び静寂に包まれる。ただ、今は二つの存在がそれを共に感じている。

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